Music: Serenade from “Hassan” Composed by Frederick Delius
音楽でも聴きながら。
北海道、3月。
氷柱が艶やかに光り始めた。
日差しが淡く柔らかくなり気温が氷点下を上回ると
真冬の間は太く長くなっていくばかりだった氷柱が水へと戻る準備に入るのだ。
パーンパーンと森の奥から響くトドマツやハルニレの「がまわれ」も
ひとつ、またひとつと消えていく。
オホーツクの海を白く覆った流氷も今、去る時を知る。
大雪の山々には子育てを始めたキタキツネが、今か今かと雪解けを待つ。
「静かに、きっともうあと少し」
耳をそばだてじっと確かめるのは、雪の下から微かに伝わる春の鼓動。
おや?
たった今、親子の耳にも届いたようだ、春のいのちの生まれる音が。
気が逸るのは人間たち。雪割り、苗づくり、花壇の手入れ。
コートをクリーニングに出してブーツをしまって、ふきのとうはいつ採りに?
カタクリが咲いたら花見の準備を。
4月、5月の夢を見る人間たち。
all photos by Katie Campbell from F.G.S.W.