music by WEE “You Can Fly on My Aeroplane”
音楽でも聴きながら。
私の町は昨日・今日と、名残雪にしっとりと包まれた。
毎年4月も中旬、ある年は下旬にも雪の降る旭川であるが、こんな日は去りゆく冬と別れる時間が愛おしい。
今夜はNYから25年来の友人Mattがやってきており、夕方も早いうちからバーボンのボトルを左手に書棚を物色していると思ったら、懐かしいWEEのアルバム”You Can Fly on My Aeroplane”を選んでプレイヤーに滑り込ませた。
書斎から戻るとキャビネットからグラスを取り出して夫と彼自身にはバーボンソーダを、私には「これ1杯にしておけよ」とオンザロックを作ってくれた。それから彼等はビジネスだのNYだのと話を始め、私は黙ってCDを聴いていた。こんな曲が似合う夜だ。
1977年リリースのこのアルバム。メロウでサイケデリックで、華やかでワルだった70年代の魅力が詰まっている。
もう随分と昔の話だ。私の記憶が正しければ、Astor PlaceからLafayetteを少し下った辺りだったか、小さなレコードショップがあって、知り合ったばかりの夫とデートの途中で立ち寄り、二人でこのアルバムを買ったのだった。
ああそう言えば、店から出ると道の向こう側にストレッチが止まり、奥の扉からスーパーロングのドレッドがダースベイダーのマントにも見えた巨大(は私の見た目であるが)な男が出てきた。周囲を歩く人たちは皆驚いて呆然と立ち尽くすほどの威圧感であったのだが、俯き加減の笑顔は穏やかで瞳がとても美しかったのを覚えている。Maxi Priestだった。
カリッ、と夫のアーモンドをかじる音が軽く響いて、今この時に連れ戻された。
日中、雲はグレイのグラデーションが美しく、水分を多く含んだ大粒の雪を絶え間なく降らした。宮下通りを走らせ車窓から中心街の様子を眺めると、おそらくアジアからのツーリストなのだろう、横断歩道を待つ30歳くらいの男女二人が思いがけない春の雪に空を見上げ、両手を広げて、ついでに大きく口まで開けて道北ならではの思い出づくりを楽しんでいた。故郷に帰って自慢するんだろうな、「Hokkaidoで4月の雪を飲んできた」と。
おそらくシーズン最後の雪の夜、良い気分だ。友の持ってきたFour Rosesの、鼻先から抜ける何とも良い香りを幾度も味わいアルバム1枚聴き終えたなら、ナイトキャップのオンザロックも最後のひと口を飲みほして、アイスホッケーの話で夜も明けそうな彼と夫には目もくれず、私はこのまま先に寝てしまおう。
music by WEE “Leavin’ You Alone”