出かける予定のない週末の朝はたいてい書店へ足が向く。最近は本だけでなく輸入雑貨や造花、おもちゃまで見かける楽しみもでき、カフェやレストランの付いたお店も増えてきて、買った本を持ち込んでランチという日も多くなったのは嬉しい限り。
先週末、友人のバースデイカードを買いに未来屋書店へ行った。ここも書籍だけでなく生活雑貨や文房具が豊富で読書好きは勿論のこと贈りものを選ぶ人でも賑わっている。
店内を見て回っていると、デザイン雑貨のシェルフに立てかけられた”イア・アクセサリー / ear accessory” という言葉。”Mimi Pet” (mimi = ‘ear’ in Japanese)とその横に書いてある。
ダックスフントの形で一見消しゴムにも見えるがあくまでもかわいいアクセサリー。グレー、ブルー、オレンジ、イエローの色使いには北欧雑貨の雰囲気があるなと思いながらグレーを手に取った。
「おお、イアプラグ(耳柱)か」と思った途端上昇するテンション。書く仕事をしてると時折私のコンセントレーションを乱す電話の音、そして窓の外で街を流しているちりがみ交換車の「ご不要になった古新聞、古雑誌とポケットテッシュ(ティッシュとは言ってくれない)、箱テッシュ、トイレットペーパーと交換いたします」のこもった声。本当に困ってたんだから、もぅ。
よし決めた、これを買おう。
家に帰ると真っ先にMimi Petを取り出してよく洗い、どこに居たって使えるくせにわざわざ一番静かで外の音が聞こえやすい書斎に入るとデスクの前に座っていよいよ身につけてみる。
胴体がふたつに割れた形なのでまじまじ見ると少し心が痛むが、気にしないようにする。
ぷにゅぷにゅとしていて柔らかく、耳にあてると少々の圧迫感。5分経っても10分経っても何も聞こえてこず眠ってしまいそうなので、ステレオに「ハンガリアン舞曲」を滑り込ませ大音量でプレイしてみると、まったく聞こえなくなるわけではないが、普段の5分の1くらいの音量には下がる気がする。お、これは使えるのではないか。
さすがに電話は無理だろうが、宿敵ちりがみ交換車ならブロックが可能かもしれない。膨らむ期待感。そして何より気に入ったのは、外界から孤立したような、それでいて精神が解放されたような、ソフトな宇宙空間を体感できるところだった。
もっとも宇宙体験などNASAへ見学に行ったくらいしかないのだけれど、Mimi Petをつけて目を閉じると、ザーという微かな血流音が不思議な浮遊感をもたらして、水に浮いているようなリラックスした気分を味わえる。
うん、これは気に入ったと目を開けると、デスクの横でメランコリックに俯く詩集の中のフェルナンド・ペソア。
ポルトガルを代表するこの偉大なる詩人を無視してひとりだけ瞬間宇宙を味わうのは失礼だ。というわけで試していただくことにすると、なかなかこれがよく似合うではないか。なるほどこんなふうに、大人がシュールに遊ぶおもちゃとしても使えそう。
Mimi Petは仕事や勉強で集中したい時、適度な真空空間を満喫したい時、そして小さなコンテンポラリーアートとしても楽しめることがここに極めて個人的ではあるが実証された。
道路を歩いている時以外、集中したい場所や静寂を求められる空間、例えば図書館などで使うならとても便利で洒落ている。隣に座る人のページをめくる音にもじゃまされず良い気分で本の世界を旅することができ、明るい日の差す窓の向こうを眺めながら物思いに耽るならなお役に立ちそうだ。
そしてややもすると「かわいい耳柱してるね」と笑顔の素敵な誰かからそうっとメモを渡されたりもする、かもしれないから、運命の出会いを待っているならひとつ持っているといい。
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all photos by Katie Campbell / F.G.S.W.