“Love Over and Over Again” by Switch
ニューヨークの家から持ってきた古い写真を整理していたら、中から自分でも驚くほどに昔のものが顔をのぞかせた。
それはブルックリンから撮ったマンハッタンの写真で、確か夜10時ごろではなかったかと思う。この時私の左隣りには背の高いハンサムな男の子がいて、NBAのチケット欲しさに二人で献血に行った話やら、週末一緒に行くNFLゲームの予定やら、互いの過去の話やら、ニューヨーカーにありがちな、NYのどこが好きかという他愛もない話もただ楽しくしていた。
けれどこの時、彼と私の間には友情とは違う空気が、確かに漂っていた。私は彼の軽快なおしゃべりを聞きながらウィットに富んだスマートな語り口調に夢中になっていたはずだし、少しビターな瞳もじっと見つめていたに違いない。そしてこの懐かしい夜景は二人を予感という名の空気で包んでいたのだと、今だから言える。
マンハッタンへ戻る途中も二人の会話は続いていたが、カーラジオからこの曲が流れてくると、途中で言葉が途切れた。Queensboro Bridge の中央に差し掛かった頃、迫りくる摩天楼を眺めながらこの歌を聴き、私は何となく、彼と恋をするのだろうなとこの時思った。
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それから20年が過ぎた今、彼は隣の部屋で深夜2時、無邪気にもゴルフ観戦にエキサイトしている。こんな彼と私があるのは、あの日の夜景とこの歌、小さな思い出が積み重なったからなのだと妻がひとり感傷に浸り幸せを噛み締めているというのに。
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恋は、始まる少し前が一番素敵だ。友達と恋人の境に苦しみ、二人でいると帰り道がせつなくなり、明日の私たち、あさっての私たちを期待したくなる。
今夜は久し振りに懐かしい写真と再会しこの曲を聴いて、あの頃始まったばかりの恋心が胸に戻ってきたような気分。いい夜だ。
・・・しかし、夫の熱の入れよう。”Keep it down” ひとこと言ってこよう。