“Tipitina” by Professor Longhair
恥ずかしげもなく言ってしまうが、ニューオーリーンズに滞在中しらふでいる時間はおそらく殆どない。朝はさすがにミネラルウォーターやアイスティーで始めるものの、日中35℃を超える炎天下、20分散歩してはバーに入って冷たいベリーニを飲み干し、また15分歩いては別のバーに吸い込まれ、今では言葉にしにくくなったがキンキンに冷えた「ハリケーン」を頼む。酔いと頭痛とファジーな記憶は私の「ニューオーリンズ3大症状」である。
その日も午前中から飲み始め、午後になると身体を突きぬけるほどに強い日差しと頭痛に意識が薄れてホテルに帰り、エアコンをMAXにして昼寝をすると、次に寒くて目が覚めたのは午前1時前。この町はここから始まる。そろそろ起きるか。
夜が更けるにつれ、片手にビアやカクテルの入ったプラスティックカップを持ち大声で会話する人たちが通りを埋め尽くしていく。
熱いシャワーを浴びても酔いが醒めた感覚はない。のどが渇き空腹も感じて、私以上に苦しんだ夫と二人、「今夜は止めておくか」と一夜の酒断ちを決意してホテルを出たはずなのに、夜空の星もかすむ通りのネオンを目にするなり記憶の彼方へと飛んでいく。
「おなかすいたね」どちらからともなく言って、さして気に入ったわけでもない小さなバーのエントランスをくぐる。
カウンターのストゥールに座ると、バーボンソーダとガンボを注文して奥でコピーバンドの演奏するプロフェッサー・ロングヘアーに耳を傾けた。
今夜も朝まで飲む。私たちはおそらく「ニューオーリーンズ性健忘症」だ。