“I Wanna Thank You” by Maze ft. Frankie Beverly
雄大な自然に囲まれて暮らしていると、自然とカメラを空へ向けることが多くなる。
特に夏の終わりは人それぞれに特別な、思い出の詰まった季節。空もまた、この時にしか見られない色や形やエモーションを私たちに残してくれるから、その瞬間を見逃さないよう、今日も私は大空を見上げる。
どこまでも広がる真っ青な空にひとつふたつ、どっしりと重たい底辺のある雲を見つけたら、そろそろぱらっとひと雨来そう。この雲が降らせる雨は20分後、美瑛に残った夏の暑さをきれいに消し去ってしまった。
富良野・十勝連峰。山肌を撫でるように流れ込む滝雲は、そこだけ見ると恐ろしさも感じるが淡い水色の空が「心配ないよ」と言っているかのように雲を穏やかに見せる。
美瑛・富良野で遊んだ帰り道、車を走らせる夫がサイドミラーをちらりと見て言う。
「後ろ、見てごらん、空がすごい色」
ほんとうだ。これまでに見たことのないオレンジとグレーのコントラスト。楽しかった一日のフィナーレにふさわしい、美しい丘の夕陽。
海を見に行った帰り、海岸線を走っていると「おや?太陽が3つ」。
帰宅してすぐに写真を見てみると、なるほどこういうことだったか。空もにくいことをするものだ、何でもない一日をこんなふうに「忘れられない日」にしてくれる。
嵐が去った後の空は時折凄まじい余韻を残す。驚異なのか怒りなのか。たったひとつ私に分かるのは、人がどんなに優れていても、この空をつくることはできないということ。
そしてこれがもし空の怒りなのだとしたら、私たちは毎日空を見上げて尋ねるべきだ。
明日もまた、変わらないこの空に出会えますか、と。まだ間に合いますか、と。
好きで好きでたまらない、海辺で過ごす黄金時間。夏の終わりの色合いはまた格別だ。
このまましばらく時が止まればいいのにと見るたび思う。この星に生きる私たちでなければ味わうことのできない、夕陽を待つ少し前のひととき。
午後を書斎で過ごし、本を読むには暗くなったと顔を上げると、目の前に広がる燃えるような夕陽。”Breathtaking” まさにこの一瞬だと思う。
最後の収穫を待つ麦畑に季節の移り変わりを告げる雨がもうすぐやってくる。
カラーコード #778899の空に、地上が美しく浮かび上がる。
この空の名前は、Hex Light Slate Gray.
何と美しいサンセットだろう、そう思ってカメラを取り出すと空が描いているのは色どりだけではなかった。
明日の大空へと向かって優美に飛び立つフェニックスの姿に小さな幸運を感じる。
涼やかな晩夏の日暮れ時にぽっかりと浮かぶ満月のやさしい桃色に、厳しい夏の暑さや苦い思い出だけが、日焼けした肌がぽろぽろと落ちるように消えていく。
今年は懐かしい友にも会えた。青春時代を共に生きてきた人は宝物だ。ふとそんなことを思ったら、月を見ながらキーンと冷えたワインクーラーを飲みたくなった。
今日、北から吹く風に秋の気配を感じた。夏が、もうすぐ旅立つ。