Moments 24: 東のエデン

広い北海道でも殊に豊かな自然を誇るのが道東である。2005年世界自然遺産に登録された知床をはじめ、今の時季は天然記念物のタンチョウヅルやオオワシ、オジロワシなどなかなか見ることのできない絶滅危惧種の生きものたちが自由に、平和に生きている。実は今日も出張中の夫から「今朝運転してたら頭の上をタンチョウが飛んでたよ」という電話があって激しく羨んだばかりだ。

道内では珍しくもない蝦夷シカの姿も、雪上となると格別な美しさを醸し出す。

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鹿というと私はアメリカの方に馴染みがあるが、顔立ちが蝦夷シカよりも良いことから蝦夷シカにはどうしてももさ~っとした印象を持ってしまう。けれどこの日見た蝦夷シカのファミリーはまさにこの世の楽園、清らかなる命そのものであった。

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冬の間、食べるものに苦労する蝦夷シカは春を待たずにその多くが死に、また繁殖力の強い彼等は夏場農作物を荒らし更には知床を中心に生態系への影響も懸念されることから、ひと冬に数千頭が殺処分されると言う。

もう3,4年前になるが冬に阿寒へ小旅行した際、ある道の駅の駐車場でセンセーショナルな光景を目の当たりにし、ランチを食べられなくなったことがある。

私たちの隣に駐車していたバンの上に、軽く10頭以上の蝦夷シカの首ばかりが血の滲む透明のビニール袋に詰められ載せられていた。殺処分した鹿の首を剥製にでもするのだろうか、どこまでも優しい目で空を見上げる彼等が何かを思っていたとしたら、おそらくそれは私たちへの憎しみというよりむしろ憐憫であったに違いないと、死してなお愛らしいあの瞳から思い込み、罰を受けている気持ちになったのだった。

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弱肉強食は野生動物のみの世界に存在するものとばかり思って生きてきたが、人がその頂点ににいることをあの日、胸に彼らの立派な角先で刻み込まれたような気持ちになったのを、私は決して忘れはしない。

人の事情も分からなくはない。けれどあの蝦夷シカの家族が無事に春を迎えられますように、そして動物たちにとってあの地がいつまでも東の楽園でありますようにと願うことが無知な妄想であったとしても、この思いを変えることは無邪気に雪で顔を真っ白にしたかわいい蝦夷シカの姿を思い返すと、できそうにない。

 

 

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