私がヴェガスで遊ばないわけ

Las Vegas は世界一の遊び場だ。それは確かであると私も認める。

が、私たち夫婦はヴェガスでは遊ばない。

“Pretty Vegas” – INXS

と、その前に、アメリカ国内ONLYの話だが私たちは自他共に認める夜遊び隊で、北東部のいくつかのカジノでは所謂「顔」だったりもする。私たちを見つけると「あ、またヤツらだ」と作り笑顔で近寄ってくるピットボスもいるくらいだ。また遊び方を知っているので、テーブルではプロ級のプレイヤーやディーラーともすぐに打ち解ける。

「プロ級」という人たちは実にかっこいい。地味な服装で「遊び」ではなくまさに「勝負」に来ているという緊張感を纏い、強運と「負けてナンボ」のオーラを放っている。

彼等は、ゆえに娯楽本位のマナーの悪いプレイヤーを徐に嫌う。特にその人たちが連続して勝ち彼等に負けが巡ってきてしまうとチップをテーブルに叩きつけたりして怒りを露わにする。でまたそういう時に限って遊び半分のプレイヤーは上機嫌を隠そうともしないから逆鱗に触れるというわけである。

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ある夜私たちの隣りで遊んでいた目つきの鋭い東洋人男性、シャープ・アイ(仮称)の話。この時テーブルには私たち夫婦を含め5人のプレイヤーがおり、皆絶好調でディーラーを打ち負かしていた。と、その様子を見て入ってきた泥酔気味の若いカップル、ポテト・ヘッズ(仮称)。その二人を見るなり彼はやる気を削がれたのだろう、ギリギリと音を立ててチップのかたまりを握りしめ小さな抵抗。そして嫌な予感は的中、波乱を巻き起こす。

ブラックジャックを皆さんがご存知と承知した上で説明させていただくと、ディーラーの表カードはキング。ここは強気でいくのが定石だ。ポテト・ヘッズは一番にカードを配られるディーラーから向かって左端におり、彼等のカードはジャックと4で14、すぐ隣の紳士はブラックジャック、彼のワイフは絵札2枚で20、私たち(席についていたのは夫)は10-5-5で20、シャープ・アイは2か所でベットしており19と、もうひとつのスポットがエース2枚でスプリットからのスプリットダブルで3か所とも20。1か所2000ドルを賭けていたからこの時点で8000ドルをベットしていることになる。申し分ないカードにテンションが上がる。

ディーラーがポテト・ヘッズにベットするかと合図すると、ここは勿論当然ヒットであるはずが、まさかのステイ。ゲームを分かっていたなら14では止めない、絶対に。しかも周囲は絶好調なのだから、流れを乱すようなことは暗黙の了解でしないものだ。なのに。

殺気立ったシャープ・アイは酔いにまかせてニヤついている二人を睨みつけ、何やらぶつぶつと文句を吐いた。

そしてディーラーが隠れているカードを開く。3だ。ここで13。いいぞ。もう1枚開く。エースで14。よし。次のカードに皆固唾を飲む。一拍置いて、ディーラーが美しい指先でカードを引き出し、開く。来い、絵札、来い。

「7」

10-3-1-7= ディーラーが無情にも21で総取りとなった。

勝負だから仕方がない、が彼は諦めきれずディーラーに次のカードを開かせると、10であった。遊び方も知らない上ゲーム運にも見放された二人はどちらにしてもバーストしていたが、それでも上手に引いていれば少なくともあっさり周囲を勝たせることはできた。

一瞬にして8000ドルを失ったシャープ・アイは二人を指差しバンとテーブルを叩いて消えた。彼だけではない。それまで順調だったゲームの流れが乱れたのを感じて、隣のご夫婦も私たちも一斉に席を立ちその場を離れた。

ヴェガスには、ギャンブリングを娯楽と捉えている人が多いように思う。まとまったバケーションで遊びに来る観光客が多いためかと考えたりもする。もちろんそれもカジノでの遊び方のひとつかもしれないが、筋金入りのギャンブラーは少ないかもしれない。

こんな経験が何度もあって、Vegas は性に合わないということになった。負けるにしても気持ち良くプレーできることが大前提である私たちにとっては、勝負性よりもエンターテインメント性の方がずっと高いヴェガスでは、本気で挑む気になれない。

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けれどもエンターテインメント性を否定しているわけではない。あちこちにサプライズが散りばめられているし、家族旅行や新婚旅行にはお薦めである。特にヴェガスにはさらりと結婚できちゃう簡易チャペルが多く、電撃婚の聖地とも言えるのだ。例えばこんなふうに。

アメリカ国内のカジノはギャンブリングの他にエンターテインメント文化が実に華やかだ。有名どころからピークを過ぎたロックグループまで夜毎コンサートが開かれるし、日本でも放送されるボクシングの世界戦などもカジノホテルが舞台になったりする。ホテル内のアミューズメントも充実しているから老若男女大いに楽しめるのがヴェガスの魅力である。

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だがやはり、カードゲームで独特な緊張感を楽しむならば、ヴェガスへはこれからも行かないだろう。私たちにとってヴェガスは、観て歌って踊って泳いでちょこっと買う町である。

しつこく申し上げるが、私たちはアメリカではけっこうな遊び人である。その上で経験者という立場から、現段階で日本にカジノを建設することには賛成できない。長きにわたる海外生活で外から日本を見、また帰国してあらためて感じた母国は健康的で清廉な国であり、またそうあり続けなければならないと願うのだ。カジノを建てるというのなら、国内においても対外的にも日本の印象を損なわない倫理的自信がついてからではないだろうか。ゆえに個人的に今はまだ、まだまだ、だと思っている。