Category: F.G.S.W. Photography
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恋のまち札幌のクリスマス2017
Merry Christmas, friends, family and lovers! “Wonderful Christmastime” by Paul McCartney 今年も恒例の札幌「ミュンヘンクリスマス市」に行ってきた。ちなみに札幌市とドイツのミュンヘンは姉妹都市である。 12月23日、天皇陛下のお誕生日である昨日は土曜日の祝日とあってか北の大都市・札幌も交通が緩やかだったが、街には既にクリスマスが待ち遠しい恋人たちや家族連れ、仲良しグループで溢れていた。 雪も厳しい寒さも小休止で気温も2℃と過ごしやすく、2時間ほど歩くにはちょうど良い陽気となった。いつもならファーのたっぷりついたフードのベネトンのスノージャケットを着て行くところが今年は必要がなくて助かった。このフードをかぶると頭部が巨大になり1時間歩くとだいたい20人くらいに笑われるからである。 本場ドイツのホリデイマーケットには到底適いっこないが、ドイツやロシア、ポーランドの工芸品やグルメを集めたあったかい札幌のクリスマス市はかわいらしく活気があって、とても楽しい。私は今年で5回目、これを逃しては年を越せない。 どのブースも小さいが、ところ狭しと飾られたオーナメントや雑貨に会話も弾む。ちょっと高価な雑貨を前に男の子が「もっと稼ぎがよければなあ」というと女の子が「私、別にこんなの欲しくないよ、こっちの方がいいな」と言って小さな木彫りのサンタクロースを手に取っている光景に心が温まる。つい「この二人はdestinyだ」と勝手に思ってしまう。 今年のクリスマスツリーはとてもよかった。クラッシックで温かで。奥に立つテレビ塔との相性もそう悪くはないし、周囲の人たちは皆スマートフォンやiPad を向けて何度も何度もシャッターを切っていた。 ミュンヘンクリスマス市の常連のこの店を見つけると、ああ今年もクリスマス市に来たなと華やいだ気持ちになる。置いてあるものが少し高いけどね。 光はイエス・キリストの誕生を象徴する大切な存在。人並みから外れて立ち止まりしばらく見つめているだけで神聖なクリスマスの空気が身体の中に注ぎ込まれるようだ。 毎年大人気のローステッドアーモンド・ショップ。前を通るとシナモンの良い香りに引き寄せられる。温かいグリューワインを飲みながら店の様子をうかがっていると、1000円札がカウンターを飛び交っていた。元気な札幌、豊かな日本に胸が躍る。 アーモンドショップの2大スターはムービースターのようにかっこいい。にこりともせずひたすら仕事にかかっているから余計にかっこいい。King of Christmas Market・サンタクロースも素敵、でも私は断然こちらである。 我が家は毎年このマトリョーシカのお店でオーナメントをひとつずつ買っている。ここも人気のブースで、このほか約300年前に誕生したと言われているロシアの伝統漆塗り「ホフロマ/Khokhloma)の漆器や、ロモノーソフ(現在はインペリアル・ポーセレン)と並んで知られるグジェリの食器なども見かけた。 マトリョーシカは何とかわいい工芸品だろう。これもいつも思うのであるが、若い恋人たちが楽しそうに工芸品を選ぶ姿はいいものだ。二人のクリスマスの思い出の品にもなるし、「ロシアってすごいねえ」という一瞬(どこらへんが?)と尋ねたくもなっちゃうが、とにかくイカした日本、素敵な外国を知る機会をこんなふうに身近に得られるのは幸せなことだと思うのだ。一度きりの人生だもの、たくさんのことを知りたいじゃないの。 今年この店で選んだオーナメントはこれ。我が家のオーナメントは150を超えたが、よく見てみると青いものがひとつしかなかった。清楚でかわいい仲間が増えて大満足。 恋する二人の記念撮影スポットNo.1はここだろう。クリスマスとヴァレンタインズ・デイが一度にやってきたようなロマンティックなツリー。あとからあとから若いカップルがやってきてはスマートフォンに向かって頬を寄せて、愛らしかった。 一昨日LEDを軽く批判してしまったばかりであるが、ドリームランドな散歩道は無数のLED電球で照らされ、その中を歩く笑顔がどれもとても美しかった。 人生甘いばかりではないけれど、こういう日があるから涙の味に唇をきゅっと結んでしまう日も乗り越え、忘れられる。 札幌も素敵ないい町だ。夫共々我が町旭川が一番だと思っているが、ずっと大都市で生きてきた私たちにとって札幌は肌に馴染む。ちょっとワシントンに似ているかな。ニートで洗練されていて、けれど歴史と文化が街中に漂っている。 スノーホワイトのきらめきに彩られた恋のまち・札幌。気持ちが華やぐ。 さて今年のミュンヘンクリスマス市は今日24日が最終日。 午後9時まで。近郊にお住まいでしたら急いでお支度して。まだ間に合う。 Click Here→ ミュンヘンクリスマス市 in Sapporoオフィシャルサイト
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27年前の色~Night of Warmer Lights
“Please Come Home for Christmas” by Eagles 今日は電気の、何とかならないかなあ、な話。 LED電球を使っていますか?我が家は、このゴールドのフロアランプひとつだけ。 1日10時間電気を使ったとして、 白熱電球は最大約6カ月 電球型蛍光灯は約3年7カ月 LED電球は約11年の寿命。 また年間の電気代に換算してみると、 白熱電球は4,257円 電球型蛍光灯は867円 LED電球は615円と、 LEDは驚きの安さである。さらにLED電球は買った時は他の電球よりも高いものの寿命を考えるとコストパフォーマンスは他の2つと変わらない計算になるという(参考: エネチェンジ)。 初歩的な情報を知るだけでも、LEDは今を生きる私たちにとって有難い存在だ。 がしかしこの時季、街を彩るまばゆいばかりのイルミネーションにどうも以前のようにうっとりできない。原因はおそらくLED電球の光。 ◆ こちらの写真。何と27年前の今日、食事に行く途中通りかかって気まぐれに撮影したリンカーン・センター(マンハッタンW.66丁目の総合芸術施設)のクリスマスツリー。 当時私はロックフェラーセンターの巨大クリスマスツリーよりもリンカーン・センターのこのツリーの方を好んでおり、学校や買い物帰りにはわざわざ遠回りをしてまで立ち寄っては「かわいいなあ」と眺めていた。 古い写真で写りが悪いが、マルチカラーが愛らしい、華やかで上品なツリー。おそらく現在はLED電球のツリーに替わったことだろう。この日の思い出が消えてしまうともったいないから、なるべくクリスマスにはリンカーン・センターの前を通らないようにしよう。 大きな声では言えないが、実は私の家のクリスマスツリーには従来のイルミネーションライツを使っている。高さ2.5mのツリーに、ニューヨークから持ってきた頃は1200個、あまりに電気代が高かったので翌年700個まで減らし、現在は500個に。それでも1月の電気代が軽く1万円オーバーになるので最近では、地球にやさしくない我が家のツリーに少々肩身の狭い思いでライトアップの時間を気持ち減らすようになった。けれどどうしてもLEDに替える勇気を持てないでいる。 LEDは私たちのために開発されたもので、皆が率先して使っていくべきであることは十分分かっている。分かっているつもりではあるものの、あの日のツリーと旭川駅前・買物公園のLEDイルミネーションを比較すると、やはり温かみのある昔の灯りの方がいいなと思ってしまう。それでなくても極寒の地で、LEDの蒼白いイルミネーションはかなり寒々しい。頭の中で、クリスマスなのに胸を締めつけるイーグルスの “Please Come Home for Christmas” が流れない。 LED電球の灯りが、何とかして以前のライトのようにならないものか。できることならどこかに手紙でも書きたい気分の、あの日から27年経った今宵である。
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しれとこ旅情のイノセントな裏切り #1
私は、彼の故・森繁久弥さんが抱擁した数多い女性のひとりである。 と色っぽい話にしたいところであるが、実際には「抱擁」に程遠くむしろ私がかじりついたという方が正しいらしい。しかも当時私はまだ2つかそこらで森繁さんが「あんた(私)よりママの方がいいな」と仰った、という信じるも信じないも私次第の都市伝説が我が家にあるも当時の記憶がないので証明は不可能、あくまでも母の妄想に過ぎないと私は今も思っている。遠い遠い夏の、深夜のちいちゃなできごと。 そんなことより、森繁さんの作られた昭和の名曲「しれとこ旅情」の話である。 子どもの頃からこの歌のゆったりとしたメロディと「遥かクナシリ(国後)に白夜はあける」という幻想的な歌詞の意味を母から聞いてからずっと気に入っており、今も私の「時折口ずさむ歌」トップ10に入ると自信を持って言え、6月に入るなり北海道各地にハマナスが咲き始めると、車中で歌うしれとこ旅情の頻度もぐんと高まる。北海道旅行の際にちょっと歌ってみると「ああなるほど」しれとこ旅情は北海道にぴったりだと思っていただけるはずだ。 知床の岬に はまなすの咲く頃 思い出しておくれ 俺たちのことを のんで騒いで丘にのぼれば 遥かクナシリに 白夜はあける 森繁久弥 記念碑に書かれている短い詩だけでも情景や、この歌の中にいる人たちの心情もしみじみと伝わってくる。こういうのを良い詩と言うんじゃないかしら、と森繁さん贔屓でなくても誰もが思うことだろう。 生まれて初めて知床を訪れたのは3年前の春先、4月。6月に咲くハマナスの季節までにはまだ随分と早かったのだが用事ができたのを機に知床へ行くと決まるや否や、脳裏をよぎる「遥かクナシリに白夜はあける」。 行こう、知床へ。見よう、国後島に明ける白夜を。6月じゃないけど。 ちなみにハマナスであるが、バラ科の植物でマジェンタピンクがとても美しく、秋になると紅い実をつける。ローズヒップである。北海道の花としても知られるが、関東や西は島根県でも見られるのだそうだ。また、皇太子妃雅子さまの御印でもあるという。 2005年7月、知床は世界遺産(自然遺産)に登録された。 知床が世界遺産に選ばれた理由として、絶滅危惧種や希少な生きものが生息・繁殖する地であることなどが挙げられている。 斜里町に入ってしばらく海岸線を走っていくと、丘の斜面に100頭ほどの蝦夷シカが挙って草を食べていた。シカはアメリカにいてもよく見かけるが、これほどの数に一度に出会ったのは初めてで、ああこれが世界遺産かと圧倒されたのだった。 北海道では絶滅危惧種として登録されているオジロワシ。この日雄々しく大空を飛ぶ姿を発見したが、実のところあまりの迫力に腰が抜け、上手くシャッターを切ることができなかった。我が家の車の上を飛んで行ったが、暗い影ができるほどに大きかった。 白夜観測を目的に知床入りするも、海の透明度や自由に遊ぶ動物、人の手が加えられていない豊かな自然に心が奪われ、しばし忘れてしまっていた。 ホテルルームから見る夕陽もいつもよりもっと神聖な気がして、大きな窓一面に広がるオホーツクの景色を1時間、太陽が水平線へ沈むまで眺めた。 翌朝は夜明け前に出発、何とか「遥かクナシリに白夜は明ける」を見るのだ。普段は怠けている神さまへの祈りを就寝前に捧げ、いよいよかと思うと気持ちが高ぶったまま、夜は更けていくのだった。 ・・・はたして私の願いは天に届いたのか。 (つづく)
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十勝の農家をかっこよく~音更町 Farmer’sの流儀
“I Won’t Last A Day Without You” by Carpenters 道東・音更町(おとふけちょう)に私たち夫婦のような海外帰りには応えられないオーダーメイド家具店がある。名は、”Farmer’s(ファーマーズ)”。 少し遠くから見慣れたデザインの建物が見えてくるなり驚きと懐かしさに興奮した。まったく予期していなかった「以前はよく見た家」が突如として現れたからだ。 1994年、「十勝の農家さんをかっこよく」をコンセプトに生まれたFarmer’s は2階建てのコテージスタイル。まず目に飛び込んできたのはおびただしい数の輸入雑貨。そしてそれ以上に目を引き心を奪われたのは、全てがFarmer’s で作られているという美しき西洋家具であった。 Farmhouse Style(ファームハウス・スタイル) 。ラスティックでありながらモダンで上品、温かみとノスタルジアに満ちた居心地良い空間が信条のその住宅・インテリアスタイルは、自然豊かな田園風景の中に立つ大きな邸宅ばかりではなく、マンハッタンのコンドミニアムなどでも人気が高い。 Farmer’s の家具や雑貨のテイストはまさにファームハウス・スタイルだ。 代表の山田さんやスタッフさんも、もの静かでおしゃれな、まさにファームハウス・スタイルがぴったりな素敵な方たちだ。どんなことにも丁寧に答えてくださり、大切な家具の作製を安心してお任せできると感じる。 この店に置かれている雑貨はヨーロッパのものが多いが、私はニューヨークからやってきたのでファームハウス・スタイルというとまず思いつくのがアメリカ北東部、ニューイングランド地方の広大な敷地に立つ美しい屋敷群。 我が家は毎年夏と秋の休暇に訪れた。こうしてアメリカを離れた今、紅葉の華やかな秋が訪れると心があの風景へと飛んでいく。そして今年はこの店を知って久し振りにアメリカの空気感に浸るなり、決定的なホームシックに陥った。 そのくらい、ここはノスタルジアに溢れている。 上下左右隅々まで楽しいFarmer’s を象徴しているのが所謂「高い所」。初めて訪れた時ここなら半日はいられると思ったが、その気持ちは今も変わらない。 ただの家具店ではない、ただの輸入雑貨店でもない。Farmer’s だからこその空間づくりは、海外の農家にお呼ばれしたような感覚を私たちに与える。 座り心地の良いこのソファには、早朝の牛の世話を終えた赤いサスペンダーの家主が帰ってきて腰を下ろし、妻がマシュマロ入りのココアを淹れて持ってくるのを待っている。そんな様子が想像できる。 シンプルだからこそ見て、触って分かる丁寧な仕事。「ご要望にできる限り沿ったかたちでファブリックまで厳選します」という代表の心強い言葉に、私なら…と早速妄想が始まる。 ニューイングランド地方は、コネチカット、マサチューセッツ、ロードアイランド、バーモント、ニューハンプシャー、メインの6州から成っている地域で、アメリカ北東部の美しさを独り占めしたような景観に溢れ、人々の暮らしぶりもとても豊かで、夏の避暑地としても知られる場所が多くある。 こちらからの眺めは、ハーバードやマサチューセッツ工科大学を誇るボストン辺りの大学職員宅といった雰囲気だ。 椅子にステンシルが施されたデスクはアンティーク・フィニッシュのペールホワイト。温かく落ち着いて何時間でもソーイングを楽しめる「主婦の仕事場」として、またライティングデスクとしても活躍してくれるに違いない。 引き出しのシェルカップ・プル・ハンドル(shell-cup pull handle・貝型取っ手)がヴィンテージの深みを伝える。 キッチンプランも自由自在だ。どんな大家族の食をも支えられる広々としたタイルのキッチンは機能的で実に愛らしい。このカウンターなら、パーティーの料理のアイデアがいくらでも浮かびそう。 加えて何だかとても懐かしいダブル・シンク。日本で見ることはほとんどないが、これもFarmer’s の手にかかれば可能になる。 このシャドーボックス・ディスプレイケースの前を通った時、ニューハンプシャー州に住む友人宅を思い出した。彼女の家にも、アンティークのガラス瓶が飾られたこんなシェルフがあったなあと。 学生時代の友人マーゴはボストン出身、コネチカットの大学を卒業した生粋のニューイングランダーだ。 ニューハンプシャーの自宅は彼女の夫、チャールズの両親が建てたもので、2階建てで壁は白く、屋根と窓の扉が深いネイビーといった、重厚感のあるファームハウススタイル。部屋数12、小川の流れる大きな庭もあった。 子供部屋はカントリーカラーが強いと温かく、愛らしい。マーゴの家も子供部屋は手触りのよい木の家具が揃っており、そう言えば彼女の娘、アリソンの部屋にこのテディ親子が座っている椅子とそっくりな、トールペイントを施した青い椅子があった。 アリソンはとてもお転婆で、私たちの滞在中この椅子を「私の馬車だ」と乗り回して壊し大泣きしたのを思い出した。できることならあの頃に戻ってアリソンにこの椅子をプレゼントしたい。一瞬で泣き止んだことだろう。 マーゴの家は山間部にあり、夏は青々とした緑に、秋には色鮮やかな紅葉が家を、また彼らの暮らしをも華やかに染める。ハロウィーンやサンクスギヴィングに彼女の家へ行くと、玄関からダイニングルームまで、まるで10月の森を歩くようなやさしいデコレーションに包まれる。 ダイニングルームには陶器やガラスの小さなランプがいくつも下がっており、天井に小さな宇宙をつくっていた。 夫と私を本気にさせたのが、この青いキャビネット。クラッシックでエレガントな佇まいと深い青は、ファームハウス・スタイル家具の王道を行く。 名著 “Da Vinch Code” を書いたDan Brown もニューハンプシャー出身であるが、彼の書斎にもこんな書棚があるんじゃないかしら、とふと思った。 マサチューセッツ州のケープ・コッド(Cape Cod)は全米有数のリゾート地で、周辺の人の暮らしやアメリカ北東部の海辺をモチーフにしたインテリアスタイルをケープコッド・スタイルと呼ぶが、このキャビネットとチェアのスポットはケープコッド・スタイルそのものだ。…
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Moments 22: 太陽の季節を乗せた列車
10月。富良野の帰り、今年最後のノロッコ号を見送った。 6月から10月にかけて、色どり美しい美瑛・富良野を走るノロッコ号。 爽やかな夏風と車窓を流れゆくのどかな田園風景を眺める時間は 名所巡りよりも甘いメロンよりも心を満たしてくれる。 この夏もたくさんの笑顔と楽しい思い出を運んだのだろう。 遠くにノロッコ号を見つけて踏切に立ち、待った。 そしてのんびりのんびり近付いた列車の中に、私は見つけた。 ふたりの乗客のすぐうしろに、太陽の季節が乗っているのを。 列車は目の前をゆっくり通り過ぎ、あとには感傷的な晩夏の余韻が漂った。 太陽の季節を連れ去ったノロッコ号が小さく小さく、やがて見えなくなると 雪に覆われた十勝連峰から、冬の訪れを告げる冷たい風が下りてきた。 明日はウールのコートを出そう。
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Frosted
“Winter Wonderland” by Macy Gray 週間天気予報に雪だるまのマークが並ぶようになってきた。 窓の外は、今も静かに雪が降っている。 私の住む旭川は北海道の中央より少し北、内陸の町であるが、この周辺一帯に降る雪はさらさらのパウダースノーで知られ、特に旭岳を中心に世界中からスキー客が訪れる。 ゆえに通常はこのように着雪することの少ない雪質であるが、冬の初め、終わり、気温の高い雨交じりの雪の翌日にはこんな美しい世界を見せてくれたりするのだ。 街中の木々がまるでフロストシュガーをまぶしたように雪に覆われると、どんなに気温が低くても散歩気分になる。ただし、気分になる、だけである。 旭川は、12月から2月にかけて日によっては-20℃を下回るが、以前-26℃の朝に無謀にも夫と二人散歩に出たところ、6枚着重ねたにもかかわらずあまりの寒さに5分と歩けず、すぐ近くのカフェに逃げ込んだのだった。 あれはもう、寒いという言葉では形容しきれない。 冷たい、痛い、キキキ、カカカ、ティティティティ、クヒクヒクヒ、そんな感じである。 我が家のバルコニーにも、砂糖菓子のような雪の結晶がひとつ、舞い降りた。 北海道に来て冬がもっと好きになったのは、見事な雪の結晶を見る楽しみを得たから。 長い長い道北の冬が始まった。さて、どこへ行こう。何をして遊ぼう。
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Solitude to Love
“Free” by Seal loneliness(ロンリネス) isolation(アイソレーション) solitude(ソリチュード) 孤独を意味する英語はいくつもあるが、中でも孤独を自由と捉えた意味を持つものが最後のsolitude である。 子供の頃は大勢で遊ぶことが多かったが、その後わざわざひとりで出直し、芝生の上で本を読んだり花を摘んだりする時間がとても好きだった。そうした日常が高じて25年前、ニューヨークの自宅で気まぐれに作ったのがこの「ソリチュード愛好家組合」。 メンバーは組合長である私のほかに家族や友人20名ほどで、特に会合や報告会があるはずもなく、皆とにかくひとりが好きなのだから、勝手にひとりの時間を楽しみ、そのための工夫があればメールでシェアするという程度の活動、活動という言葉も大袈裟なほどだ。 けれど愛読書や「その気になれるドリンクメニュー」には「なるほど~」と思えるものが多く、先細りするでもなくだらだらと続いている。 日本では未だに電車の乗り方など勝手がよく分からないので単独行動は控えめであるが、NYにいると美術館も映画もひとりで行くことが多い。静かな場所で美しいものを見ると良い考えがいくらでも浮かんでくるものだ。 反対に、何も考えず頭をからっぽにして過ごすのもひとりの醍醐味。昔大学時代の恩師が「疲れるとひとりで映画館やビーチへ行く」と言っていたのを真似てみただけだが、これがよく効く。映画館の場合はホラーや社会派を除かなければリセットにはなりそうにもないが、暗闇の中で人目もはばからずぽかんとしていられる時間もまた、大切な人との会話同様人生を豊かにしてくれる。 ソリチュード愛好家組合にはひとつだけ条件がある。「かっこよく楽しくソリチュードに浸る」である。かっこよく、は何も高いブランディを飲むとか最高級ブランドの家具を部屋に置くとかいうディテールよりも、五感を満たしてくれる過ごし方をするということだ。 美しいものを見、読み、心の震える音楽を聴き、おいしいものを嗜む。四六時中するのではなく、例えば一日の終わりにぽつんとひとり日常という時空から抜け出してこれらに囲まれる。明日を新しい気持ちで迎えるきっかけにもなるのも嬉しい。 発足25年を機に、新しくソリチュード愛好家組合のブログも始めることにした。そちらもそのうちぜひご覧ください。 本日ソリチュード愛好家に捧げるのは、白ミント・ティー。白ミントはふつうのペパーミントよりも軽い口当たりで優しいお味。私は昼下がりや夜寝る前の読書と一緒に楽しんでいる。 いかがです?ソリチュード愛好家組合。組合員番号21番に、登録しませんか?
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You&Me Philosophy
“Built for Love” by PJ Morton 本当ならハロウィーンディナーの買いものでもしているはずだった10月最終日の午後。何も予定を入れないこの日があるなんて、思いもよらなかった。 10月は夫も私も多忙を極め、繰り返し数えてみても何日一緒にいたか覚えてもいない。ハロウィーンをただの気だるい休日にしたのは、それが理由だ。 久し振りに帰宅した夫とランチに出てからしばらくドライブし、私たちが「小軽井沢」と呼んでいる東川町のカフェに立ち寄った。 今年できたばかりのその店にはひと組の先客があったがとても静かで、普段なら決して聞き逃すことのないBGMも覚えていないほどの静寂。この日の私たちには嬉しかった。 飲みものが運ばれてきてからは、殆ど話をしなかった。夫はもちろん長い出張で疲れていたし、私も文字との格闘が続きいささか脳内がショートしていた。 真空管の中にいるような時間がゆっくり、ゆっくりと流れていく。夫はタブレットで読書をし、規則的にページを流す彼の指先を、私は熱いトラジャ・ママサを飲みながらぼんやりと追った。 久し振りに時間を気にせずいられると思ったら、気が緩んだのか軽い眠気が訪れた。視線を落とすと、グラスの中の水がとてもきれいに見えた。 東川は日本でも珍しい「上水道0%の町」。この町で使われている水は大雪山の伏流水、それだけでごちそう。北海道の移住率1位はここにも理由がありそうだ。 夢現を行き来しながら私はひとつずつ数えるように嬉しくなった。澄んだ水、心地良い時間、それから本を読む夫の口もとに浮かぶ笑み。 晩秋の西日が店の窓から差し込み四角くなって集まると、その中にある文字が浮かび上がったように見えた。 “blessed” ~ 恵まれた人生だ。 若い頃なら、会話が途切れるという不安のエッセンスが胸に直接流れ込んでチリチリと痛みもしただろうが、今はこんな時こそ相手の気持ちが手に取るように分かるし、思いやれる。テーブルを挟んで、言葉がない時にこそ見えてくる空気に確信する。相手の存在と、その人の為に生きることが己の人生を満たしているということ。 よくもまあそんなこと言えるねと笑われてしまうかもしれないが、私たちの間に漂っていたその空気は22年連れ添ってみないと分からなかった、22年経った今、気付けば完成していた夫と私の「夫婦(めおと)哲学」であると言ってしまっていいのではない、か、な? 店を出ると、日が沈んだばかりで辺りは橙に染まり、店の窓ガラスにもヨーロッパの古い絵画のように映っていた。 明日はまた遠くへ出かける夫に、今夜はからだに優しい夕食を考えよう。 Wednesday cafe & bake: 北海道上川郡東川町東8号北1番地 TEL: (0166) 85-6283 Open Hours: 11:00 – 18:00 Closed: 木曜日 Wednesday Instagram 写真の町 北海道上川郡東川町オフィシャルウェブサイト: Higashikawa Town of Photography
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One Fine Day とフリルなブランチ
“Saturday Morning” by Rachael Yamagata 夫も私も忙しかった10月。久し振りに会った休みの朝は、ゆっくり起きてブランチしてから「日本の都市公園100選」にも選ばれている旭川の常磐公園へ今年最後の紅葉を見に。 この日のブランチはケイティ命名「フリルなピアディーナ」。9月の終わり、オープン直後の北欧の風 道の駅とうべつ「レストランAri」で出会ったかわいくて美味しいピアディーナを真似て家で作ってみた。おしゃれで栄養満点で意外にも食べやすい。定番ブランチになりそう。 因みにこの道の駅、入った途端IKEAの香りがするのであるが、調べたところ使われている家具はやはりIKEA製であった。なかなか素敵な道の駅。 ◆「フリルなピアディーナ」の作り方は最後に。 うららかな昼下がり、この日の気温は7℃ともう秋とも言えない寒さ。けれど風もなく歩くには心地良い。気分も軽く、時もゆっくりと流れてゆく。 座って何か飲もうということになったものの、腰を下ろすとベンチが冷たくて諦めた。お日さまは暖かいのに、やはりここは旭川。冬の訪れをベンチで実感。 誰も乗らなくなったボートの上でダックが日なたぼっこ、というより寒くて固まっているようにも見えてしまう。たぶんそう、寒いのだわ。 見事という言葉しか浮かばない、それほどに美しい枯葉のじゅうたんは、踏んでみると何てソフトなのだろう。降り注ぐ午後の日差しがつくる木漏れ日も、夏のそれとはやはり様子が違う。センチメンタルでいい感じだ。 絵本の中にでも入り込んだようなこの小道を夫と話をしながら歩く時間は、それが永遠でもよいと思えるくらい気に入っている。夫は楽しい話の達人なのだ。 この日の話題は「手相」。空に手をかざしながら彼はスターとソロモンの輪を持ち、私は太陽線と縦一直線の運命線を持つのだと言う。おもしろいおもしろいと喜ぶも、傍から見ればややもすると「え?これが?ほんとに??」そして「相手にしても仕方のない、ほっとくしかない愚かな夫婦」ということになろう。 周囲の目などおかまいなしに、二人の会話は続く。途中、公園内の神社に立ち寄ってお参りし、私だけおみくじを引いた。心の温まるお告げが書かれていた。 どんなに忙しくても、こんなささやかな良い一日があるから明日を楽しみに生きられる。 公園のボードウォークを北風と踊る枯葉の美しさも忘れてはいけない。こういう季節の小さなひとこまが意外にも5年先、10年先の良い思い出の中に描かれているものだ。 風がいっそう冷たくなって、指先がキーンとする。熱いお茶が飲みたくなって、私たちは公園と、晩秋のOne Fine Dayを後にした。 ◆ フリルなピアディーナのお材料 2人分: ・薄めのピッツァクラスト:2枚(直径20cm、軽くトーストして柔らかくする) ・蒸し鶏 200g (ランチならローストチキン、ローストビーフもおすすめ) ・チーズ:普段はエメンタールですが今回はチェダーとゴーダ3層のスライスチーズ使用 ・ベイビーリーフ、紫キャベツ・スプラウツ、千切り大根やミックスビーンズのサラダなどお好みで。マスタード・リーフなどもアクセントになって美味しいし、具材に合わせたハーブを替えればちょっとしたおもてなしランチになる。野菜はフレンチドレッシングやオリーブオイル+ソルトを軽くかけておく。 ・チェリートマトはMUST! 大きなサンドウィッチもこれがあると飽きがきません。 ・真ん中のパンプキンサラダは電子レンジにかけマッシュしたパンプキンをマヨネーズとメイプルシロップで和えたものを使いました。メイプルシロップの香りが強過ぎるという場合はハニーやオリゴ糖で。 ・ソースはマヨネーズ+ホースラディッシュ(北海道では「山わさび」と呼びます)。私は甘みの強いアメリカのマヨネーズが好きですが、今回は日本製マヨネーズがよく合います。 ◆具をクラストのハーフスペースに載せたら半分に折り、くるくると巻いて、中央にできた穴にパンプキンサラダやポテトサラダを押し込み、空いているスペースにビーンズも加え、大きめのペーパーナプキンで包んでカップに差して立てておく。私はメイソンジャーを使用。 ◆ピアディーナはイタリアの軽食で、丸いクラストを半分に折って具材を挟むことが多いが、「北欧の風 道の駅とうべつ」の「レストランAri」さんではこんなにかわいいサンドウィッチにしていた。パーティーメニューにもできそう。
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冬が来るまえに
“So Far Away” by Carole King 10月17日、旭川、札幌など北海道のところどころで初雪が降った。 街の紅葉は美しいのに、秋が旅立つのを待たずに冬が来て少し慌てた。 まだ足りない、私には秋がまだ。 北海道の中央より少し北にある旭川市。 この町に美しい英国風庭園がある。それがここ、「上野ファーム」。ガーデンは今月15日で今シーズンの公開を終え冬休みに入ったが、クローズのほんの数日前に大急ぎで訪れた。 上野ファームは、旭川の美しい秋を集めた庭だ。入口を抜けると、別世界。 秋のイングリッシュガーデンは、イギリスの画家、コンスタンブルの描いた風景画のように誰の心にも安らぎを与えてくれる。 ああ、風が冷たくなかったなら、いつまでもここに座っているのに。 花の季節はまだ終わらないと、力強く主張するこの花の名前は何だろう。 デルフィニウムのようで、違うような。 太陽に向かって夏を呼び戻さんと真っすぐに伸びていた。 元気に実っていたのはポークウィード(pokeweed)。和名は洋種山ゴボウという。 こんなにおいしそうなのに、無情にも毒性植物。誘惑に負けて食べてしまった人がどれだけいることか。見るだけ、見るだけよ。 果汁は美しい染料に。見事な秋色のショールができそうだ。 レンガの壁に触れると、ひんやりと冷たい。夏に来た時は灼熱の太陽を受けて2秒と触っていられなかった。 陽光が秋の深まりとともに弱くなっていくことを、指先で感じた午後。 散歩道に、海松(みる)色の小さな小屋。かわいいこの扉の前に立つと、訪れる人は誰もここが日本だということを、ふと忘れてしまうはず。 北海道は不思議な国。10月になってもアジサイ、ひまわり、菜の花を見かける。このアジサイはやがて見事なバーガンディレッドに染まり、季節の終わりを私たちに告げる。 逞しいパンプキンのファーマーは上野ファームのフィナーレを鮮やかに彩っていた。 四つの季節、どれが好き?と尋ねられたら私は迷わず秋、と答えるだろう。けれど季節は、同じ場所には留まれない。 去りゆく秋を、呼び止めた気分だ。秋よ、さようなら。 これで冬を、迎えられる。
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Moments 19: October Rain
ー 10月の雨 ー 10月の雨は、魔法の雫。 ひとしきり町を濡らしてまたひとコマ季節を動かすと 雲の合間から気まぐれに虹の贈りもの。 車を降りて、しばらくここで見ていよう。 10月の雨は、奇跡の粒子。 夏を遣り過ごしうなだれていたアスパラガス畑に いたずらのような、一瞬の輝きを振りかける。 まばたきしないで、しっかり心に刻み込もう。 いつまでも思い留めておきたい風景は、10月の雨が描き出す。 photos and poem by Katie Campbell / F.G.S.W.
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ひとつ目の秋
“You’ve Got a Friend” by Carole King 優しくてもの哀しい秋が好き。そして秋はCarole Kingの季節だ。 道北は1年のうち半年近くが雪に眠る。ほか3つの季節はどれも短く、秋も街を駆け抜けるように深まっていくから私はそれを追うのに精いっぱい。 休日、散歩をしていると音もなく足元に落ちたナナカマドの実。少しくすんだ朱が短い秋を急いで伝えるように憂いを含んでいる。 昨日の午後、東南の窓から初雪に覆われた十勝岳が見えた。あと3週間もしないうちに街も白くなるだろう。明日はクロゼットの衣替えをしよう。 今秋初めてのパンプキンは、出荷できないものを農園で選ばせてもらった。 裏が少し傷ついているので手に入ったものであるが、形だけ見るとマンハッタンのdeliで$50の値がついていても抱えて持ち帰るに違いない。それほど気に入った。 ニューヨークか。私は北海道を愛して止まないが、秋が来ると無性に帰りたくなる。 毎年通りのカツラやブナが色づき始めたら、木の実でキャンドルリースを作る。 2017年は、この1年楽しみに乾燥させたツルウメモドキの枝。 10月、11月のコーヒーテーブルがこの小さなリースひとつで華やかに、rusticになる。ろうそくは、シナモン&クローヴ。毎晩仕事から帰ってくる夫に「うちの中が一番秋だな」と言わせるのも秘かなる目的のひとつ。 仕事に追われても、リースを作るひとときは忘れない。 夫が知り合いの農家さんでごちそうになった「坊っちゃんかぼちゃ」の簡単スウィーツは今や我が家の定番だ。この秋ひとつ目の坊っちゃんかぼちゃももちろん農家さん命名「農家のホットパンプキン」で味わった。大好きだったスウィートポテトも、今はこれに勝てない。 ナナカマド、パンプキンパッチ、キャンドルリース、坊っちゃんかぼちゃ。 これが私の、今年ひとつ目の秋。 ◆ The Easiest Way to Cook “Farmers’ Hot Pumpkin”: 1.坊っちゃんかぼちゃ(直径10cmほどのもの)を水にくぐらせ、ラップする。 2.500wのマイクロウェイブで8分間加熱する。 3.あつあつのうちに上部をカットして種を取り除く。 4.バター、メイプルシロップはたっぷりと。最後にシナモンパウダーで仕上げ。 バターとメープルシロップが基本だが、中にアイスクリームを1スクープぽこっと落としたりマスカルポーネチーズとココアパウダーでパンプキンティラミスにしても秋らしいデザートになる。 ステーキの付け合わせとしてもよく合い、ローストガーリックのクリームソースに絡めたマカロニを中に詰めるのはおもてなしの時。