Category: F.G.S.W. Street Tales
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Old Pic & Car Radio
“Love Over and Over Again” by Switch ニューヨークの家から持ってきた古い写真を整理していたら、中から自分でも驚くほどに昔のものが顔をのぞかせた。 それはブルックリンから撮ったマンハッタンの写真で、確か夜10時ごろではなかったかと思う。この時私の左隣りには背の高いハンサムな男の子がいて、NBAのチケット欲しさに二人で献血に行った話やら、週末一緒に行くNFLゲームの予定やら、互いの過去の話やら、ニューヨーカーにありがちな、NYのどこが好きかという他愛もない話もただ楽しくしていた。 けれどこの時、彼と私の間には友情とは違う空気が、確かに漂っていた。私は彼の軽快なおしゃべりを聞きながらウィットに富んだスマートな語り口調に夢中になっていたはずだし、少しビターな瞳もじっと見つめていたに違いない。そしてこの懐かしい夜景は二人を予感という名の空気で包んでいたのだと、今だから言える。 マンハッタンへ戻る途中も二人の会話は続いていたが、カーラジオからこの曲が流れてくると、途中で言葉が途切れた。Queensboro Bridge の中央に差し掛かった頃、迫りくる摩天楼を眺めながらこの歌を聴き、私は何となく、彼と恋をするのだろうなとこの時思った。 ◆ それから20年が過ぎた今、彼は隣の部屋で深夜2時、無邪気にもゴルフ観戦にエキサイトしている。こんな彼と私があるのは、あの日の夜景とこの歌、小さな思い出が積み重なったからなのだと妻がひとり感傷に浸り幸せを噛み締めているというのに。 ◆ 恋は、始まる少し前が一番素敵だ。友達と恋人の境に苦しみ、二人でいると帰り道がせつなくなり、明日の私たち、あさっての私たちを期待したくなる。 今夜は久し振りに懐かしい写真と再会しこの曲を聴いて、あの頃始まったばかりの恋心が胸に戻ってきたような気分。いい夜だ。 ・・・しかし、夫の熱の入れよう。”Keep it down” ひとこと言ってこよう。
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Photograph
“Photograph” by Nickelback This is a little story that actually happened during our journey from home in New York to Los Angeles; about the fleeting friendship among me, my husband and this guy named Joe met at an auto repair shop in New Mexico and also about a picture disappeared a year later from the bar…
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Street Tales #1: Beale Street
“All Your Love” by John Mayall & The Bluesbreakers w/ Eric Clapton(1966) 1990年代初頭だからかれこれもう30年近くも前の、我が夫Mattの話。 当時グリニッチ・ヴィレッジにThe Bottom Lineというヴェニューがあって彼も私もよく足を運んだ。残念ながら2004年に30年の歴史を閉じたのだが、実に多くのミュージックシーンがそこで生まれ、今も語り継がれている。 authorized by WNYC 確か、今日のように暑い日の午後。Mattがひとりワシントン・スクエアを歩いていると、彼の着ているTシャツを指差して見覚えのない男性が近付いてくる。そして、 「おお、それうちの店だよ」さらに、 「気に入った。今夜ボトムラインで友達が演奏するからおいでよ」 黒いTシャツには白字で “Rum Boogie Cafe” というロゴが入っており、着ている本人はその店で買ってきたわけでも、また別段何を意識して着ていたわけでもなかったものだからただ驚き、彼の差し出すチケットを言われるままに受け取った。 その日の夕方ボトムラインへ行くと、昼間会った自称「Rum Boogie Cafeのオーナー」は店の奥で誰かと話をしていたが視線が合ったので手をあげて礼を言うと彼も笑顔で手を振った。 彼の言っていた「友達」がブルース・ロックのレジェンド John Mayallだと知って、Mattは街角に転がっていた幸運を拾ったような夢心地で演奏を楽しんだと言う。 その話はここでおしまいなのであるが、数年後、旅行中メンフィスに立ち寄った時、黒に白字で店のロゴが入ったTシャツを思い出してBeale Streetを歩きながら当時の夫の話を聞いていると、 「あ、ここだ」 Rum Boogie Cafeは、トワイライト・アワーにネオンが美しく映える、居心地の良いブルース・バーだった。 実のところ、夫はその男性の言うことを話半分に聞いていたと言う。ニューヨークには人の数だけ思いもよらないおかしな出会いもあるものだから。 けれど結果的には嬉しいかたちで予想を裏切られ、普段は冷静でシニカルな夫も素直に興奮していた。そして長い時を経てボトムラインの思い出と再会したことを、彼は大いに喜んだ。 Time goes by. Life goes on. 時間とともに街は変わる。けれど心の中にある青春時代の風景は、決して色褪せ消えゆくことはない。 Rum Boogie Cafe John Mayall…