Category: Solitude Lovers
-
雨音を聴く水曜午後3時
Music: Jeux d’eau – Ravel 冷たい雨の水曜日。晴れていればスタルヒン球場に高校野球の予選でも見に行こうと張り切っていたのに中止の発表。しかたがないから町の小さなソリチュードでも探しに出ようと支度をした。 2時間走って辿り着いたのは空港近くのアイスクリーム・パーラー。私たちとすれ違いに2色のアイスクリームを手に車に戻るパリッとグレーのスーツを着こなした男性。ふと夏のマンハッタンを歩くビジネスマンを思い出す。 新鮮な雨水を受けてすくすくと育つぶどうの葉の喜ぶ様子が手に取るように分かる。秋にはこのぶどう棚いっぱいにプヨンと弾力のある甘酸っぱい実をつけるのだろう。 道民は雨が降ろうが雪が舞おうが老若男女アイスクリームを食べるトライブなのである。例え5年選手でもね。エアリーもコクの深い上質なアイスクリームに午後の気だるさが吹き飛ぶ。 今日のフレイバー: Mocha + Strawberry 店には店主の女性と私たち夫婦のみで、店先の水たまりに雨粒が落ちる音が聞こえる。 ポロン、ポロン、ポロン、トゥン。最後のトゥンは、高く響く。 淀みのない澄んだ雨の音楽はリズムよく、休むことなく続く。それはピアノのような、あるいはグロッケンシュピールの鍵盤の上でマレットがはじけるような、軽快な音。 6月の雨を好きだと言う人は少ないが、6月の緑は一年で一番美しい。秋色の葉も、憧れの眼差しで生き生きと季節を満喫する豊かな緑を眺めているよう。 「どんな植物も、6月だけは緑でないと」かわいい愚痴が聞こえてくる。 夏を待てないパティオのチェアは少し寂しげにベンチに向かって恨みごとを言うと、ベンチは涼しげに微笑んでチェアを宥めるに違いない。 「もう7月になろうってのに、ああもう冷たい。体が冷えるわ、ねえ」 「鉄の椅子になったことも北海道に送られたことも、すべて運命、受け入れることよ」 ◆ When it rains in Japan, they often make the hanging dolls with papers or fabrics called “Teru-Teru Bozu” meaning “the boys that bring the sunshine” as a kind of good-luck charm…
-
Solitude to Love
“Free” by Seal loneliness(ロンリネス) isolation(アイソレーション) solitude(ソリチュード) 孤独を意味する英語はいくつもあるが、中でも孤独を自由と捉えた意味を持つものが最後のsolitude である。 子供の頃は大勢で遊ぶことが多かったが、その後わざわざひとりで出直し、芝生の上で本を読んだり花を摘んだりする時間がとても好きだった。そうした日常が高じて25年前、ニューヨークの自宅で気まぐれに作ったのがこの「ソリチュード愛好家組合」。 メンバーは組合長である私のほかに家族や友人20名ほどで、特に会合や報告会があるはずもなく、皆とにかくひとりが好きなのだから、勝手にひとりの時間を楽しみ、そのための工夫があればメールでシェアするという程度の活動、活動という言葉も大袈裟なほどだ。 けれど愛読書や「その気になれるドリンクメニュー」には「なるほど~」と思えるものが多く、先細りするでもなくだらだらと続いている。 日本では未だに電車の乗り方など勝手がよく分からないので単独行動は控えめであるが、NYにいると美術館も映画もひとりで行くことが多い。静かな場所で美しいものを見ると良い考えがいくらでも浮かんでくるものだ。 反対に、何も考えず頭をからっぽにして過ごすのもひとりの醍醐味。昔大学時代の恩師が「疲れるとひとりで映画館やビーチへ行く」と言っていたのを真似てみただけだが、これがよく効く。映画館の場合はホラーや社会派を除かなければリセットにはなりそうにもないが、暗闇の中で人目もはばからずぽかんとしていられる時間もまた、大切な人との会話同様人生を豊かにしてくれる。 ソリチュード愛好家組合にはひとつだけ条件がある。「かっこよく楽しくソリチュードに浸る」である。かっこよく、は何も高いブランディを飲むとか最高級ブランドの家具を部屋に置くとかいうディテールよりも、五感を満たしてくれる過ごし方をするということだ。 美しいものを見、読み、心の震える音楽を聴き、おいしいものを嗜む。四六時中するのではなく、例えば一日の終わりにぽつんとひとり日常という時空から抜け出してこれらに囲まれる。明日を新しい気持ちで迎えるきっかけにもなるのも嬉しい。 発足25年を機に、新しくソリチュード愛好家組合のブログも始めることにした。そちらもそのうちぜひご覧ください。 本日ソリチュード愛好家に捧げるのは、白ミント・ティー。白ミントはふつうのペパーミントよりも軽い口当たりで優しいお味。私は昼下がりや夜寝る前の読書と一緒に楽しんでいる。 いかがです?ソリチュード愛好家組合。組合員番号21番に、登録しませんか?