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クリスマス準備ただいまNo.6
“Jingle Bell Rock” by Hall & Oates 私の主観だが、日本のクリスマスの過ごし方はとても華やかだ。宗教行事とは別の捉え方が主体であるからだろうか。子供のいる家庭ならクリスマスを家というケースが多いかと思うが、大人の世界は、例えば私の独身の友人などはパーティー三昧、恋人と極上ホテルステイ、ディナーショーと、言葉からきらきらと星が飛び散りそうなほどゴージャスである。 アメリカでは、クリスマスは一般的に1年で一番静かな日である。離れている家族が帰ってきて共に食事をし、テレビを見たりおしゃべりを楽しんだりする。大学時代、クリスマス休暇で学校が休みになると、学生寮に住んでいた友が一斉に実家へ帰っていく光景を見ながら、ああもうすぐクリスマスだなとしみじみ思ったものだ。私も帰省する一人であった。 一方、街も静まるクリスマス当日に反し、その日までの準備もまた日本にはあまり馴染みの深いものではないかもしれない。 サンクスギヴィング(11月第4木曜日)の午後からクリスマスの準備は始まる。日本にも導入された(個人的には、何かちょっと違うんじゃないかと思うのであるが)ブラック・フライデイもホリデイ・ショッピングのための日で、予め誰に何をプレゼントするか決めておき、一大セールを狙って多くの人が朝早くからデパートの前に並んで開店を待つ。大手デパートなども朝5時オープンなど、かなりの熱である。 家族・親族の多い友人のケースだと、サンクスギヴィングの日、夜にターキーを食べると夫婦は出かける準備をし、その夜0時に始まるブラック・フライデイのセールに夫と妻が手分けして並ぶ。連絡を取り合いながら次々とメモに書かれた品物を買い求め早朝6時、やりきった二人のショッピング第1ラウンド終了。いったん家に帰り仮眠をとり、その日の午後再び買いものに繰り出す。 12月初旬の彼女の家には、かわいらしくラッピングされた方々へのホリデイギフトが50以上も並び、私などはそれを見て毎年感心するというよりむしろ「引っ越しか」と圧倒され魂を抜かれてしまう。 ところで、一般的なアメリカのクリスマス準備は次のようなものだ。 1.カードやギフトのリストを作る。 2.帰省する家族のエアチケットを取る。 3.ディナー(パーティー)メニューを決める。 4.ターキーやハムをオーダーする。 5.ギフトショッピングをする。 6.クリスマスツリーと家を飾る。 7.クリスマスカードを書く。 8.ギフトラッピングをする。 9.クリスマスカードやギフトを送る。 10.パーティーや家族の帰省前の大掃除 など。 我が家は今年は出足が遅れ、今夜ようやくクリスマスツリーを飾っている。アメリカはこの時季大忙しだから、カードやギフトは週明けには送れるようにしておかなければならない。 今日・明日は、大量のリボンとの戦いである。ホリデイソングには「クリスマスに欲しいのはあなただけ」なんて歌詞をよく見かけるが、これが現実。 週明け、己の身体がリボンの切れはしまみれになっているのを想像しただけでくしゃみが出そう。もちろんそれでも、クリスマスは大好きなのだけど。
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Moments 22: 太陽の季節を乗せた列車
10月。富良野の帰り、今年最後のノロッコ号を見送った。 6月から10月にかけて、色どり美しい美瑛・富良野を走るノロッコ号。 爽やかな夏風と車窓を流れゆくのどかな田園風景を眺める時間は 名所巡りよりも甘いメロンよりも心を満たしてくれる。 この夏もたくさんの笑顔と楽しい思い出を運んだのだろう。 遠くにノロッコ号を見つけて踏切に立ち、待った。 そしてのんびりのんびり近付いた列車の中に、私は見つけた。 ふたりの乗客のすぐうしろに、太陽の季節が乗っているのを。 列車は目の前をゆっくり通り過ぎ、あとには感傷的な晩夏の余韻が漂った。 太陽の季節を連れ去ったノロッコ号が小さく小さく、やがて見えなくなると 雪に覆われた十勝連峰から、冬の訪れを告げる冷たい風が下りてきた。 明日はウールのコートを出そう。
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Frosted
“Winter Wonderland” by Macy Gray 週間天気予報に雪だるまのマークが並ぶようになってきた。 窓の外は、今も静かに雪が降っている。 私の住む旭川は北海道の中央より少し北、内陸の町であるが、この周辺一帯に降る雪はさらさらのパウダースノーで知られ、特に旭岳を中心に世界中からスキー客が訪れる。 ゆえに通常はこのように着雪することの少ない雪質であるが、冬の初め、終わり、気温の高い雨交じりの雪の翌日にはこんな美しい世界を見せてくれたりするのだ。 街中の木々がまるでフロストシュガーをまぶしたように雪に覆われると、どんなに気温が低くても散歩気分になる。ただし、気分になる、だけである。 旭川は、12月から2月にかけて日によっては-20℃を下回るが、以前-26℃の朝に無謀にも夫と二人散歩に出たところ、6枚着重ねたにもかかわらずあまりの寒さに5分と歩けず、すぐ近くのカフェに逃げ込んだのだった。 あれはもう、寒いという言葉では形容しきれない。 冷たい、痛い、キキキ、カカカ、ティティティティ、クヒクヒクヒ、そんな感じである。 我が家のバルコニーにも、砂糖菓子のような雪の結晶がひとつ、舞い降りた。 北海道に来て冬がもっと好きになったのは、見事な雪の結晶を見る楽しみを得たから。 長い長い道北の冬が始まった。さて、どこへ行こう。何をして遊ぼう。
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Happy Vintage Thanksgiving!
今日のニューヨークはとても良いお天気で、Macy’s Thanksgiving Day Paradeが行われているが、我が家はいつの頃からからパレードを見に行かなくなった。凍てつく寒さに耐えられないのと同時に好きなバルーンが次々にリタイアしてしまったからである。 この写真、30年くらい前のものではないだろうか。デジカメが登場する前の一眼レフで撮影したためかなり哀愁が漂ってしまっている。でもこの頃のニューヨークが好き。 Kermit the Frog にしても、今のバルーンはもっと明るい色合いでトイザラスで手に入りそうなポップな雰囲気を持つが、これはどちらかというとフェルトの人形のような温かみを持つ。この時確か、とても風が強くてバルーンが撃沈しまくっていたのを覚えている。 Kermit the Frog は、1977年に初登場だそうだ。 Raggedy Ann は小さな頃から大好きで、人形はもちろん部屋のカーテンやクッションもAnn のデザインだったなあと、サンクスギヴィング・パレードのたびに思い出した。 Raggedy Ann が初めてパレードに現れたのは1984年というから、この写真はその頃、ちょうど30年くらい前であろう。 こちらもお気に入りのひとつ、Happy Dragonであるが、やはりこの頃よりもだいぶポップな感じに変わってしまった。時は流れ、私は古くなっていく、ということである。 Happy Dragon は何と、1937年に初登場した古株中の古株だ。 アメリカのお祝いだもの、歴代の大統領も練り歩く。今もまだあるのだろうか。 サンクスギヴィングは、イギリスから渡ってきたピルグリムスと彼等を病気や飢餓から救ったネイティブ・アメリカンの感謝祭。ターキーの写真が見つからなくて残念だったが、こういう山車を見るとホリデイ気分も一気に盛り上がるものだ。 最後に登場するのはもちろんサンタクロース。ホリデイシーズンの到来を告げる。 我が家は毎年パレードをテレビで見たのちステーキハウスでターキーディナーを食べ、そのまま日曜の夜まで旅行に出るが、今年は家に友人たちを招いて、夜はフットボールを見ながら大宴会。Traditional Thanksgiving な一日になりそうだ。 Happy Holidays!!
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甘くて賢い朝の約束~Rise & Shine w/ Dolcedi
“Precious” by Esperanza Spalding 今日はささやかな朝のおすすめ、のお話。 夜型人間のくせに私は朝が大好きだ。これまでの長い人生で気持ちの沈んだ朝を迎えた記憶が殆どない。失恋しようが仕事で徹夜しようが、朝はなぜだか機嫌が良い。 そして私は平日朝食を摂らない。たっぷりのお茶とフルーツのコンポート&ミューズリーを加えた少量のヨーグルトのみである。が、ここ2週間は先月の多忙が祟り胃を悪くしているためミューズリーは抜いている。 世界中が健康志向を高めていく中、甘味料の見直しも進んで嬉しい限り。白砂糖を使わないという人も増え、我が家もカロリーなど気にしつつ、砂糖の代わりにメープルシロップやオリゴ糖を使っている。 GI値というのがある。Glycemic Index(グリセミック・インデックス)、食後血糖値の上昇スピードを表したものだそうで、食べ方によってずいぶんと変わるのだそうだ。 例えば、米などは精白米よりも玄米の方が食物繊維やミネラルが豊富なためGI値は低くなり、甘味料においても、身体に良いとされるハニーはミツバチが果糖とブドウ糖に分解したもののためGI値が高く、メープルシロップは樹液が原料なので低いという話だ。 小さい頃から”my honey dipper” を持つほどハニーが大好きだが、これを知ってから摂取を控えるようになった。 ハニーに代わって私の「朝の約束」となったのが、イタリアのオーガニックジャム・ブランドRigoni di Asiago社の “Dolcedi” ドルチェディというアップルシロップ。30年間マクロバイオティクスを実践し続けている友人から薦められたもので、100%オーガニックアップルで作られている。 無色透明で甘みが強く、りんごというよりそれこそハニーのような味わいがあるが、GI値が砂糖よりも20%低いという。正直なところこれだけ甘くコクがあると「ほんとかなあ」と呟いてもしまうが、原料のりんごがオーガニックであるところだけでもポイントは高いでしょう? 食生活も、おいしいだけでなく楽しく美しく、そして賢くありたいものだ。これはなかなか良いのではないかと思っている。 ほんの少しの朝食を終えてゆっくりできる朝のお茶は、20年以上愛用しているWilliams Sonomaのカフェオレボウルで飲む。このカップの何が好きかって、ティーポット1杯分が入るキャパシティ。おなかの辺りに抱えて読書をしながらいつまででもお茶をすすっている。 そして傍らにはモリエールの「人間ぎらい」。好きなものをたらふく食べられない恨みをアピールしているわけでは決してない。 それでは新しい1週間もどうぞお元気で、お幸せに。
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Solitude to Love
“Free” by Seal loneliness(ロンリネス) isolation(アイソレーション) solitude(ソリチュード) 孤独を意味する英語はいくつもあるが、中でも孤独を自由と捉えた意味を持つものが最後のsolitude である。 子供の頃は大勢で遊ぶことが多かったが、その後わざわざひとりで出直し、芝生の上で本を読んだり花を摘んだりする時間がとても好きだった。そうした日常が高じて25年前、ニューヨークの自宅で気まぐれに作ったのがこの「ソリチュード愛好家組合」。 メンバーは組合長である私のほかに家族や友人20名ほどで、特に会合や報告会があるはずもなく、皆とにかくひとりが好きなのだから、勝手にひとりの時間を楽しみ、そのための工夫があればメールでシェアするという程度の活動、活動という言葉も大袈裟なほどだ。 けれど愛読書や「その気になれるドリンクメニュー」には「なるほど~」と思えるものが多く、先細りするでもなくだらだらと続いている。 日本では未だに電車の乗り方など勝手がよく分からないので単独行動は控えめであるが、NYにいると美術館も映画もひとりで行くことが多い。静かな場所で美しいものを見ると良い考えがいくらでも浮かんでくるものだ。 反対に、何も考えず頭をからっぽにして過ごすのもひとりの醍醐味。昔大学時代の恩師が「疲れるとひとりで映画館やビーチへ行く」と言っていたのを真似てみただけだが、これがよく効く。映画館の場合はホラーや社会派を除かなければリセットにはなりそうにもないが、暗闇の中で人目もはばからずぽかんとしていられる時間もまた、大切な人との会話同様人生を豊かにしてくれる。 ソリチュード愛好家組合にはひとつだけ条件がある。「かっこよく楽しくソリチュードに浸る」である。かっこよく、は何も高いブランディを飲むとか最高級ブランドの家具を部屋に置くとかいうディテールよりも、五感を満たしてくれる過ごし方をするということだ。 美しいものを見、読み、心の震える音楽を聴き、おいしいものを嗜む。四六時中するのではなく、例えば一日の終わりにぽつんとひとり日常という時空から抜け出してこれらに囲まれる。明日を新しい気持ちで迎えるきっかけにもなるのも嬉しい。 発足25年を機に、新しくソリチュード愛好家組合のブログも始めることにした。そちらもそのうちぜひご覧ください。 本日ソリチュード愛好家に捧げるのは、白ミント・ティー。白ミントはふつうのペパーミントよりも軽い口当たりで優しいお味。私は昼下がりや夜寝る前の読書と一緒に楽しんでいる。 いかがです?ソリチュード愛好家組合。組合員番号21番に、登録しませんか?
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才能の行方~No Pipe Dreams
“Blue in Green” by Bill Evans 今日この話をしようと思い立ってから、思い出を手繰り寄せ、NYの家から持ってきた写真の箱を5つ開け、宝箱の中からPLAYBILL(ブロードウェイのミュージカルなど、各劇場で上演されている演目の情報が掲載された小さな月刊誌)を引っ張り出したりしながらだんだん寂しくなってしょんぼりしていたら午前3時をまわってしまい、結局執筆は翌日になった。 90年代、映画と言えば私はKevin Spacey かDenzel Washington だった。彼等を見られる作品なら何でも観た。ハリウッド映画の大当たり年であった1997年の”L.A. Confidential” などはW. 58丁目のDirectors Guild Theater で4度観た、毎回Sheraton New York のロビーで夫の仕事が終わるのを待ちながら。”American Beauty” は郊外の家の近くで2度観た。 1998年、Eugene O’Neill がノーベル文学賞を受賞した後に書き上げた傑作 “The Iceman Cometh(氷人来る)”のリバイバルがやってきて、これにKevinが主演した。当時時間を見つけられずにいた私は千秋楽直前の1999年7月、念願叶ってようやく観に行くことができたのだった。 仲間うちでも早くから話題になっており、もう時効であるので話してしまうと、私はこれをどうしても観たいと思って仕事をさぼり、当時入手が極めて困難だったチケットを1度は夫の伝手で、数回は劇場関係者及び役者の友人に泣きつき、最後はダフ屋から$350の2階席を買ってまで観に行ったのだからどれだけ素晴らしい芝居であったかお分かりいただけるだろう。 クライマックス、彼の演じるセールスマン、Hickey が作品のテーマであるpipe dreams(見果てぬ夢・虚夢)と自分の身の上を語るシーン。情けないことに記憶が定かでなくなってしまったのだが、おそらく約30分間、彼がたったひとりで話し続ける。長い長いセリフと身のこなし、その迫力に圧倒され、「これがプロの仕事か」と観るたび心も体も震えたものだ。 ショーが終わると観客は、私も同様に役者の出待ちをする。やがて姿を現したKevin を拍手で迎え、彼はにこりともせずに端からひとりひとり、手の届かない後ろのファンにもぐっと手を延ばしてサインに応じた。笑みもなく言葉も交わさないがやり取りがとても丁寧で、観客とのそうした一定の距離感がまたたまらなくかっこよかった。 私は、憧れのムービースターの内面や私生活にまったく興味がない。露出している部分で秀でているところを見せつけてくれればそれこそがファンにとっての醍醐味だと思っている。本来才能とはエキセントリックなものだもの、世に名を残す人、特に役者のような、別人格になるのを生業としている人には少なからず「普通でない」部分があっていい。 また素晴らしい役者だからと言って素晴らしい人間とは限らない。役者に限ることでもない。ただ彼は人を、多くの人たちを傷つけてきたというのだから、その人たちの心が癒えるだけの代償を長い時間をかけて払っていかなければならないのだろう。 人の数だけ人生があるように、愛し方にも決まった形などあるはずがない。男性であろうが女性であろうが。けれど愛は必ずや、平等な立場の上に成り立っていなければならない。 ドラマも映画も降板が決まり、今、諦めきれないほどに残念でならない。例え彼の才能が類まれなものであっても、社会は、道徳は、人の心はそう簡単に許してはくれない。が、おそらく彼には目指すところがまだまだあったのではなかろうか。それがpipe dreams に終わらぬよう願うばかりだ。 ◆ そう言えば、2度目の時だったろうか、私の斜め前の席に日本のこちらも名優、仲代達也氏がいらした。赤と白のギンガムチェックのシャツにジーンズがとてもよくお似合いで、やはり一般人とは違う才能の輝きを放っていた。きっといつかHickey を演じられるのだろうと思っていたが、その話を耳にすることはなかった。 そして来春、この”The Iceman Cometh” がDenzel Washington 主演でブロードウェイに帰ってくる。観たい。その頃NYに帰れないものか。小さな野望が頭をもたげ始めた。
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月に願いを~Under the Space Window
“Claire de Lune” composed by Claude Debussy, played by Michel Beroff 私は子供の頃、月が天国だと思っていた。誰に教えられたわけでも絵本に書かれていたわけでもない。ただ、そう思っていた。それが就学前に買ってもらった学研の百科事典に月面の写真を見た時の驚愕。夢を壊されたような気持ちを今も忘れない。 これはまったくの余談。 ほんの一時であったが学生時代を過ごしたアメリカの首都ワシントン。学びの多い都市だと訪れるたび思う。私の女子大生時代はまだ治安も悪かったが、今は夜間でなければ安心して歩けるのも嬉しい。 ここは、Washington National Cathedral, ワシントン大聖堂である。 いつ訪れても不思議とこのように青い空の中にありながらこの世のものとは思えない威厳と清らかさをバリアにしている。本当に、いつどう撮っても浮き上がって見え、やはり神様のいる場所であると、プロテスタントの私などは思ってしまうのである。 ワシントン大聖堂は聖公会の教会である。聖公会はカトリックとプロテスタントの中間に位置付けられるとされている。さまざまな宗派の礼拝堂が配置されているところも興味深い。 正面の礼拝堂は一部のアメリカ大統領の就任式や要人の葬儀など、重要な行事を取り行う場所でもある。一面に漂う荘厳な冷気に、罪深い心が洗われていくのを感じる。 思ってもみなかったのであるが、世界に残る最後のゴシック様式建築物としても知られるワシントン大聖堂。そう知ったら余計に石柱やステンドグラスの美しさに心を奪われる。私たちのみならず、周囲の人たちも老若男女みな、無言で辺りを見回していた。 またここは1968年3月31日、マーティン・ルーサー・キング Jr. が翌4月4日にメンフィスで暗殺される前の最後の演説をした場所でもあり、彼のニッチも永遠の平和を得て、穏やかに佇んでいる。彼やマルコムXに関する書物を読むたび、生きる自由と心の安寧が何より幸せであると何度でも思い、この人生に感謝する。 数あるステンドグラスの中で大聖堂の正面を飾る、「ローズ・ウィンドウ」。 1976年に設置された、女王の胸元に光るブローチさながらの華やかなステンドグラスは直径約8m、放射状の模様は創造の持つ威厳と神秘への祝福を表しているのだそうだ。 配色には古代ギリシャのエンペドクレスによる四元素、火を意味する赤、空気のグレー、水はグリーン、そして地球を表すブラウンが主に使われている。 ここで一番好きな窓が 「スペース・ウィンドウ」。アポロ11号で月面着陸を果たした二ール・アームストロング船長はじめバズ・オルドリン並びにマイケル・コリンズの3人が地球に持ち帰った「月の石」である。当時NASAでアポロ11号の任務に当たっていたトーマス・O・ペイン博士によって寄贈された。 この石は彼らが月の「静かの海」から採取したもので、7グラムととても小さい。さらに驚いたことに、この石は36億歳だという。宇宙の何故は知ろうとすればするほど混乱する。 ◆ 私も今では天国が月にないことは分かっている。だいたい人が歩いてしまったのだし。けれど月の石の下に立つと、何故だかどうしても手を合わせたくなる。大好きで大好きで大切にしてもらった、この世で一番の理解者の祖母が天に召された時私はホノルルにおり、別れに立ち会うことができなかったことが今も心残りとなっていて。 だからスペース・ウィンドウに出会ってから、私は必ず祈る。これが最も私に近い月で、こじつけでもそこは祖母のいる天国だと思いたいのだ。優しくてお茶目な祖母のことだ、私が祈れば応えてくれているに違いない。 最後に、このパネルを是非見ていただきたいと思い掲載させていただきました。 「ヘレン・ケラーと彼女の終生の友、アン・サリヴァン・メイシーは、このチャペル裏の地下墓室に埋葬されている」 パネルの上部と下部を見比べて、あなたは何をお感じになられましたか。 Washington National CathedralOfficial Website
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彼らが来たら、Minty Fall
“Felicidade” by Lisa Ono 北海道の秋の味覚は数あれど、忘れてならないのがかつて北海道土産の代表格であった「木彫りのクマ」が抱えている魚。そう、鮭である。 去年の10月、ニュースで「旭川市内の石狩川でも鮭が見られる」と聞き、連日川という川を探して歩いたのであるが一度も見ることができず、結局旭川が誇る北海道遺産「旭橋」を幾度となくうっとり眺めるに終わった。 ならば今年もとカメラ&双眼鏡を首から提げて休みのたびに出かけ夕暮れ時まで粘るも、やはり発見できず、無念。場所が悪かったのかしら。 今年は不漁と言われた鮭であるが、それでも秋も深まってくるとスーパーマーケットの鮮魚コーナーを半分は占領する秋鮭。焼き魚をしない我が家でも何とか楽しみたいものだと思っていると、あるアメリカの雑誌でサーモン・サンドウィッチのレシピを見つけたので作ったみた。 が、オリジナルレシピで使われていたお酢が強くて我が家ではNG。そこでお酢をレモンに替えたところ、ちょっといいランチになった。 名付けて”Minty Fall” Sandwich ~「ミントな秋のサンドウィッチ」。 パンは、本当は形もお味も抜群の日本の食パンを使いたかったがサーモンのオイルでふやけてしまうので、今回はバゲットを使った。軽くトーストしておく。 まず、薄切りのきゅうりに塩を振って、レモンスライスで香りと酸味を移す。きゅうりはパリッとした食感が命であるが、塩とレモンに10分ほど漬けて少ししんなりしたものもサーモンによく馴染むようだ。 続いてサーモンはフライパンで両面を焼き、塩コショウする。バゲットはスライスしてバターを薄く塗り、スライスしたきゅうりと焼いたサーモン、そしてやや多めのミントの葉を載せてサンドする。これだけ。 最後に、道民の大好きな山わさび(ホースラディッシュ)とマヨネーズを合わせたものを味付けに添える。あるいは、NY郊外の行きつけのスパニッシュレストランで出されるホットソース(タバスコソースなど)とマヨネーズのコンビネーションもおいしい。これをソースにして召し上がれ。 ミントが青魚特有のオイルを爽やかに食べさせてくれる。サンドウィッチをよく食べる我が家でMinty Fallは新しい定番メニューになりそうだ。 鮭の美味しい季節。週末のランチに、いかが? “Minty Fall” Sandwich お材料(2人分): サーモンフィレ 1柵: 我が家で購入した鮭は厚さが5cmほどだったので半分にしました。 バゲット: 1cmの厚みで4枚 レモンスライス: 2枚 きゅうり: お好みの量 ミントの葉: お好きなだけ。1人分10枚くらいあるとミントが活きます。 塩、コショウ: 適宜 ホースラディッシュ: 生をすりおろすかチューブのものを小さじ1 マヨネーズ: 大さじ1~2
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Moments 21: 旭岳600m地点~秋と冬の境
10月下旬、起きると町が白くなっていた朝、ふと山の様子を知りたくなって隣町・東川町の北海道の屋根「旭岳」まで走ってみることにした。我が家から車で50分ほどだ。 北海道の雪は人気のニセコのみならず道北の内陸もまたさらさらのパウダースノーで知られるが、冬の初めはまだ水分を多く含むため、道内テレビ放送局のニュースキャスターは「東京の雪」と紹介していた。 朝は路面も真っ白だったがお昼前にはすっかり溶けていた。雪も降り、今年の紅葉もいよいよ見納めの頃を迎えた。 秋が、もう少し長ければいいのに。 程なく前方に車の雪下ろしをしている男性を発見。上はかなり積もっているもよう。 木々の枝に雪が載って少しずつ冬が見えてくるも、まだ秋と言えなくもない。 ぐんぐん車を走らせていく。そして。 秋と冬の境は、600m地点を超えた辺りにあった。 時折薄日が差すと、この光がまるで雪をふうっと吹きかけ、木々を白く染めていくかに見える。自然でなければつくることのできない美しさ。 新しい季節の入口に立った気分。 「標高800m辺りからぐっと景色が変わるよ」という夫の言葉は確かなのだが、今シーズンは私たちの出足が遅かったようだ。 秋は600mで終わり、800mの辺りはもう12月が来たかのよう。 標高1500m地点、ロープウェイ駅に到着。 小雪の舞い散る駅周辺は-6℃、森は長い冬の眠りに就いた。 日本で一番早く冬の訪れる旭岳。屋根の氷柱もだいぶ伸びて、スキー客を出迎える準備は着々と進んでいる。 私はこれを確認して、さあ、冬から晩秋へと逆戻り。
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You&Me Philosophy
“Built for Love” by PJ Morton 本当ならハロウィーンディナーの買いものでもしているはずだった10月最終日の午後。何も予定を入れないこの日があるなんて、思いもよらなかった。 10月は夫も私も多忙を極め、繰り返し数えてみても何日一緒にいたか覚えてもいない。ハロウィーンをただの気だるい休日にしたのは、それが理由だ。 久し振りに帰宅した夫とランチに出てからしばらくドライブし、私たちが「小軽井沢」と呼んでいる東川町のカフェに立ち寄った。 今年できたばかりのその店にはひと組の先客があったがとても静かで、普段なら決して聞き逃すことのないBGMも覚えていないほどの静寂。この日の私たちには嬉しかった。 飲みものが運ばれてきてからは、殆ど話をしなかった。夫はもちろん長い出張で疲れていたし、私も文字との格闘が続きいささか脳内がショートしていた。 真空管の中にいるような時間がゆっくり、ゆっくりと流れていく。夫はタブレットで読書をし、規則的にページを流す彼の指先を、私は熱いトラジャ・ママサを飲みながらぼんやりと追った。 久し振りに時間を気にせずいられると思ったら、気が緩んだのか軽い眠気が訪れた。視線を落とすと、グラスの中の水がとてもきれいに見えた。 東川は日本でも珍しい「上水道0%の町」。この町で使われている水は大雪山の伏流水、それだけでごちそう。北海道の移住率1位はここにも理由がありそうだ。 夢現を行き来しながら私はひとつずつ数えるように嬉しくなった。澄んだ水、心地良い時間、それから本を読む夫の口もとに浮かぶ笑み。 晩秋の西日が店の窓から差し込み四角くなって集まると、その中にある文字が浮かび上がったように見えた。 “blessed” ~ 恵まれた人生だ。 若い頃なら、会話が途切れるという不安のエッセンスが胸に直接流れ込んでチリチリと痛みもしただろうが、今はこんな時こそ相手の気持ちが手に取るように分かるし、思いやれる。テーブルを挟んで、言葉がない時にこそ見えてくる空気に確信する。相手の存在と、その人の為に生きることが己の人生を満たしているということ。 よくもまあそんなこと言えるねと笑われてしまうかもしれないが、私たちの間に漂っていたその空気は22年連れ添ってみないと分からなかった、22年経った今、気付けば完成していた夫と私の「夫婦(めおと)哲学」であると言ってしまっていいのではない、か、な? 店を出ると、日が沈んだばかりで辺りは橙に染まり、店の窓ガラスにもヨーロッパの古い絵画のように映っていた。 明日はまた遠くへ出かける夫に、今夜はからだに優しい夕食を考えよう。 Wednesday cafe & bake: 北海道上川郡東川町東8号北1番地 TEL: (0166) 85-6283 Open Hours: 11:00 – 18:00 Closed: 木曜日 Wednesday Instagram 写真の町 北海道上川郡東川町オフィシャルウェブサイト: Higashikawa Town of Photography
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One Fine Day とフリルなブランチ
“Saturday Morning” by Rachael Yamagata 夫も私も忙しかった10月。久し振りに会った休みの朝は、ゆっくり起きてブランチしてから「日本の都市公園100選」にも選ばれている旭川の常磐公園へ今年最後の紅葉を見に。 この日のブランチはケイティ命名「フリルなピアディーナ」。9月の終わり、オープン直後の北欧の風 道の駅とうべつ「レストランAri」で出会ったかわいくて美味しいピアディーナを真似て家で作ってみた。おしゃれで栄養満点で意外にも食べやすい。定番ブランチになりそう。 因みにこの道の駅、入った途端IKEAの香りがするのであるが、調べたところ使われている家具はやはりIKEA製であった。なかなか素敵な道の駅。 ◆「フリルなピアディーナ」の作り方は最後に。 うららかな昼下がり、この日の気温は7℃ともう秋とも言えない寒さ。けれど風もなく歩くには心地良い。気分も軽く、時もゆっくりと流れてゆく。 座って何か飲もうということになったものの、腰を下ろすとベンチが冷たくて諦めた。お日さまは暖かいのに、やはりここは旭川。冬の訪れをベンチで実感。 誰も乗らなくなったボートの上でダックが日なたぼっこ、というより寒くて固まっているようにも見えてしまう。たぶんそう、寒いのだわ。 見事という言葉しか浮かばない、それほどに美しい枯葉のじゅうたんは、踏んでみると何てソフトなのだろう。降り注ぐ午後の日差しがつくる木漏れ日も、夏のそれとはやはり様子が違う。センチメンタルでいい感じだ。 絵本の中にでも入り込んだようなこの小道を夫と話をしながら歩く時間は、それが永遠でもよいと思えるくらい気に入っている。夫は楽しい話の達人なのだ。 この日の話題は「手相」。空に手をかざしながら彼はスターとソロモンの輪を持ち、私は太陽線と縦一直線の運命線を持つのだと言う。おもしろいおもしろいと喜ぶも、傍から見ればややもすると「え?これが?ほんとに??」そして「相手にしても仕方のない、ほっとくしかない愚かな夫婦」ということになろう。 周囲の目などおかまいなしに、二人の会話は続く。途中、公園内の神社に立ち寄ってお参りし、私だけおみくじを引いた。心の温まるお告げが書かれていた。 どんなに忙しくても、こんなささやかな良い一日があるから明日を楽しみに生きられる。 公園のボードウォークを北風と踊る枯葉の美しさも忘れてはいけない。こういう季節の小さなひとこまが意外にも5年先、10年先の良い思い出の中に描かれているものだ。 風がいっそう冷たくなって、指先がキーンとする。熱いお茶が飲みたくなって、私たちは公園と、晩秋のOne Fine Dayを後にした。 ◆ フリルなピアディーナのお材料 2人分: ・薄めのピッツァクラスト:2枚(直径20cm、軽くトーストして柔らかくする) ・蒸し鶏 200g (ランチならローストチキン、ローストビーフもおすすめ) ・チーズ:普段はエメンタールですが今回はチェダーとゴーダ3層のスライスチーズ使用 ・ベイビーリーフ、紫キャベツ・スプラウツ、千切り大根やミックスビーンズのサラダなどお好みで。マスタード・リーフなどもアクセントになって美味しいし、具材に合わせたハーブを替えればちょっとしたおもてなしランチになる。野菜はフレンチドレッシングやオリーブオイル+ソルトを軽くかけておく。 ・チェリートマトはMUST! 大きなサンドウィッチもこれがあると飽きがきません。 ・真ん中のパンプキンサラダは電子レンジにかけマッシュしたパンプキンをマヨネーズとメイプルシロップで和えたものを使いました。メイプルシロップの香りが強過ぎるという場合はハニーやオリゴ糖で。 ・ソースはマヨネーズ+ホースラディッシュ(北海道では「山わさび」と呼びます)。私は甘みの強いアメリカのマヨネーズが好きですが、今回は日本製マヨネーズがよく合います。 ◆具をクラストのハーフスペースに載せたら半分に折り、くるくると巻いて、中央にできた穴にパンプキンサラダやポテトサラダを押し込み、空いているスペースにビーンズも加え、大きめのペーパーナプキンで包んでカップに差して立てておく。私はメイソンジャーを使用。 ◆ピアディーナはイタリアの軽食で、丸いクラストを半分に折って具材を挟むことが多いが、「北欧の風 道の駅とうべつ」の「レストランAri」さんではこんなにかわいいサンドウィッチにしていた。パーティーメニューにもできそう。