Tag: 秋
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冬が来るまえに
“So Far Away” by Carole King 10月17日、旭川、札幌など北海道のところどころで初雪が降った。 街の紅葉は美しいのに、秋が旅立つのを待たずに冬が来て少し慌てた。 まだ足りない、私には秋がまだ。 北海道の中央より少し北にある旭川市。 この町に美しい英国風庭園がある。それがここ、「上野ファーム」。ガーデンは今月15日で今シーズンの公開を終え冬休みに入ったが、クローズのほんの数日前に大急ぎで訪れた。 上野ファームは、旭川の美しい秋を集めた庭だ。入口を抜けると、別世界。 秋のイングリッシュガーデンは、イギリスの画家、コンスタンブルの描いた風景画のように誰の心にも安らぎを与えてくれる。 ああ、風が冷たくなかったなら、いつまでもここに座っているのに。 花の季節はまだ終わらないと、力強く主張するこの花の名前は何だろう。 デルフィニウムのようで、違うような。 太陽に向かって夏を呼び戻さんと真っすぐに伸びていた。 元気に実っていたのはポークウィード(pokeweed)。和名は洋種山ゴボウという。 こんなにおいしそうなのに、無情にも毒性植物。誘惑に負けて食べてしまった人がどれだけいることか。見るだけ、見るだけよ。 果汁は美しい染料に。見事な秋色のショールができそうだ。 レンガの壁に触れると、ひんやりと冷たい。夏に来た時は灼熱の太陽を受けて2秒と触っていられなかった。 陽光が秋の深まりとともに弱くなっていくことを、指先で感じた午後。 散歩道に、海松(みる)色の小さな小屋。かわいいこの扉の前に立つと、訪れる人は誰もここが日本だということを、ふと忘れてしまうはず。 北海道は不思議な国。10月になってもアジサイ、ひまわり、菜の花を見かける。このアジサイはやがて見事なバーガンディレッドに染まり、季節の終わりを私たちに告げる。 逞しいパンプキンのファーマーは上野ファームのフィナーレを鮮やかに彩っていた。 四つの季節、どれが好き?と尋ねられたら私は迷わず秋、と答えるだろう。けれど季節は、同じ場所には留まれない。 去りゆく秋を、呼び止めた気分だ。秋よ、さようなら。 これで冬を、迎えられる。
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Mellow Yellow Hokkaidow~秋色北海道
“Hello My Friend” by America 短い夏が去っていった。 季節が変わったと教えてくれるのは山から流れてくる冷たい風と、街中を柔らかく包み込んで胸をきゅっとせつなくさせる、優しい黄色の世界だ。 カラーコード#FEF263・黄檗色(きはだいろ)。 東川町キトウシ森林公園のルックアウトから見る秋色風景は、稲の刈り入れを控えた今が一番美しい。車のボンネットに寝転がってしばらくじっと見ていると、太陽の角度が変わるにつれて下界を覆う黄色少しずつ変化していく。 現実であることを忘れてしまう、一瞬の錯覚が楽しい。 晩夏の北海道を彩った女郎花色のルドベキアもそろそろその役目を終え、次の季節へと命を繋ぐ。 家路を走る私たちを和ませるのは、山吹色の田んぼに差す午後4時の日差しの温かさ。 丘には金茶色のキバナコスモスが色鮮やかに咲き乱れ、秋の訪れを歓迎する。青空にも、雨の日にも似合うこの花が、私は今の季節一番好き。 太陽の恵みも繊細な承和色(そがいろ)の葉に守られて、今年も大きく育ちました。もうすぐ刈り入れ、私たちが白く小さな新しいいのちの粒に出会えるのももうすぐだろう。 柑子色(こうじいろ)のケイトウ、花言葉は「おしゃれ」「気取り屋」「色褪せぬ恋」。毛先に残った夏の欠片が風に飛ばされてシャボン玉と消えてしまっても、二人の恋は秋とともに深まっていく。 今日の旭岳は鶏冠石(けいかんせき)の黄。紅葉の見頃を迎えた山肌が傾いていく陽光に照らされて、青空に凛と聳える日中の姿とは違う、女神の微笑にも似たソフトな一面が恋しい気持ちを呼び覚ます。 ふと母の声が聞きたくなる。明日は電話をしてみよう。 夏季限定のこのドリンクもベンディングマシンから姿を消し、代わりにアップルティーがディスプレイされていた。 気まぐれな秋の空は刈り入れの終わった飴色の麦畑を憂鬱にさせる。 灰色の雲が広がり、雨が降り、虹が出て、また雨が降り、丘が眠りにつこうという頃、この道の向こうから冬の精・雪虫が7日後の初雪を告げにやってくる。 9月の夕陽ははちみつ色。ミルキーなオレンジをほんのり含み、柔らかに暮れていく。 澄んだ風がいい気持ち。肌寒くても少しの間ここに立っていよう、あの太陽が、地平線へ沈むまで。 “Nothing dies as beautifully as autumn.” – Ashlee Willis, A Wish Made of Glass